暴力団を排除すれば……芸能界にも“飛び火”するかもしれない相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年07月08日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『誤認 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 大量の現役力士や親方を巻き込んだ日本相撲協会の野球賭博問題は、大関・琴光喜と大嶽親方の解雇処分と引き換えに、名古屋場所の開催決行という形で幕引きが図られた。角界を巡っては、土俵近くの「維持員席」で多数の暴力団幹部が観戦していたことが問題視されるなど、反社会的勢力との関係が度々取りざたされてきた経緯がある。このため、一部関係者だけを処分する今回の幕引きに“モヤモヤ感”を抱いた向きが多いはずだ。今回の時事日想は、角界の問題を通じ、反社会的勢力との関係断絶について触れてみたい。

芸事・興行に不可欠

 『仁義なき戦い 代理戦争』(1973年・東映京都作品)という映画をご存じだろうか。「仁義なき〜」は菅原文太扮する広島の暴力団組長・広能昌三を軸に、日本の闇社会の姿をリアルに描いた人気シリーズで、「代理戦争」は第3弾にあたる。

 劇中、広能組長がプロレス興行を主催するシーンが登場する。興行控え室では、広能を始め、地元の組関係者がビールを酌み交わしている。そこに、反則負けしたレスラーが戻ると、広能組長はビール瓶でレスラーの頭部を強打。わざと流血させた上で、観客をわかせるために「遺恨試合の続きをやってこい」と発破をかけるのだ。

 閑話休題。

 若い世代の読者には馴染みが薄いかもしれないが、プロレス全盛期に子供時代を過ごした者にとって、「代理戦争」のワンシーンに違和感はないのだ。

 小学生のころ、筆者が頻繁に足を運んだ地方興行では、一目で“その筋の人”と分かるお兄さんたちが大勢いたことを鮮明に記憶しているからだ。事の善し悪しは別にして、「興行は暴力団が仕切る」という暗黙の仕組みがあることを、筆者は子供時代に知った。

 翻って角界の問題はどうか。「維持員席」問題が表面化した際、同協会を所管する文部科学省は「暴力団関係者が何らかの関係で介在し、反社会勢力とつながりがあると社会から見られること自身、公益法人のあり方として極めて不適切」(スポーツ・青少年局・芦立訓競技スポーツ課長=6月14日の発言)と断じた。

 しかしその後も野球賭博問題が噴出したため、角界と暴力団が長年切っても切れない関係にあることを世間に強く印象づけた格好だ。

 名古屋場所に先立ち、同協会特別調査委員会は力士や親方と暴力団関係者の間で、賭博に関して直接の因果関係がなかった旨を明らかにしたが、「暴力団抜きで野球賭博を仕切ることなど絶対に不可能」(捜査関係者)とみる専門家が多いように、長年の“付き合い”が一朝一夕になくなるかはまだまだ不透明だと筆者は考える。

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