どうなる? 財務省がビジネス書を出版したら相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年07月01日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

 賢明な読者は既にお気付きだと思うが、これが長年培ってきた財務省のノウハウの1つなのだ。国家の金庫を集中管理する同省には、記者だけでなく、与野党議員、他省庁、金融業界などさまざまな人間が出入りし、接触を図る。国家財政や行政上の膨大な情報が集まり、発信されていく同省の動向を探るためだ。

 同省の側に立てば、集まってくる人間たちをどううまくさばきつつ、味方につけるかという方法は、外部のコンサルタントに知恵をつけられるでもなく、長年の間にノウハウとして蓄積してきた結果に他ならないのだ。

 記者の場合であれば、「どの媒体でどの程度のキャリアがあり、個別説明することで省にとってどんなメリットがあるか」を綿密に計算して対応しているのだ。

 「担当替え直後の記者対応」はどうだろうか。多くの元同僚によれば、これも他所のクラブ記者のときと同様、個別対応の頻度は極めて高い。「初対面のとき、記者に好印象を植え付けることができれば、後々、真っ先に記者が取材に訪れる。そうなれば、省主導で記事のベースを構築することが可能になる」(同省の元幹部)との思惑があることは間違いない。

 最近替わったばかりの国のトップが、かつての強面姿勢から急に同省寄りの発言を繰り出し始めた背景にも、こうした事情が潜んでいると筆者はみている。

財務省

財務省のノウハウは売れる!

 読者に誤解してほしくないのは、ここまで触れてきた事柄は、財務省が蓄えてきたノウハウをビジネス書に転用したらどうか、という仮定の上に成り立っている。記者と取材源の距離感、あるいは官僚としてのあり方を議論するのが目的ではないことをもう一度お断りしておく。

 筆者が零細な助言業務で会ってきたクライアントは、大企業幹部が主体であり、筆者のような青二才が本来偉そうなことを言える立場の方々ではない。また、それぞれに大きな広報部を有する企業でもある。だが、財務省の記者対応の一端を紹介しただけでも、相当に「ヒキが強い」というのが筆者の偽らざる感想なのだ。

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