「国費留学した官僚の退職は許せん!」と憤るあなたへちきりんの“社会派”で行こう!(2/3 ページ)

» 2010年05月17日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「税金の無駄遣い」はどっち?

 まず、「彼らが海外で学んできたことが活用されているか?」という視点で見ると、Aさんの場合、学んだことはまったくムダになっています。税金を使って留学したのに効果はゼロで、税金はムダに使われています。一方、Bさんは学んだことを最大限に活用しています。

 国家公務員の生涯給与は(天下りが廃止されれば)非常に低いので、Aさんが生涯に納める税金より、Bさんが生涯に納める税金の方がかなり多いでしょう。その納税額の差で、留学費用が返還できてしまう場合もあるのではないでしょうか。加えて、Bさんの成功パターンの方であれば、起業した企業が納める法人税も多額だし、そこで雇われた従業員が払う所得税や消費税なども国の税金となります。1000人に1人でも成功すれば、Bさんグループの納税面での国への貢献度は、Aさんグループを圧倒するでしょう。

 日本経済への貢献度合いを比べてみましょう。

 Aさんは官僚としてすばらしい法律や制度を作ってくれるでしょう。日本の財政破たんを防ぐために、消費税を20%にする法律を作ったり、年金の破たんを防ぐために年金支払い年齢を75歳に引き上げるという法律を作るかもしれません。また、国交省で地方の高速道路建設の再開を計画したり、総務省で日本郵政の再国有化に尽力したり、総務省で地方分権に反対する仕事をしたりするかもしれません。そのうち立候補して政治家になる可能性もあるし、そうなると将来は大臣もありえます。

 一方、Bさんは企業再建や経営支援の分野でプロとなり、日本企業のグローバル化推進を支援したり、和製ファンドを立ち上げて、複数の企業の再建を支援するかもしれません。起業で成功した場合には、毎年数百人の新規雇用を生み出す可能性もあるし、個人としても「世界のビジネスリーダー100人」などに選ばれるかもしれません。そういったリストに1人でも日本人が入っているのを見て、誇らしく思う日本人の納税者も存在しますよね。

 ちきりんは、税金で留学した人は、ぜひともその経験や学びを日本という国、そして日本人全体に貢献するために使ってほしいと思っています。例えば厚生労働省から派遣されて留学した人は、厚生労働省にその恩や義理を返すのではなく“国民への価値提供”という形で報いてほしいということです。

 そう考えれば、「自分を留学させてくれた特定の省庁に一生勤務すること」が税金を有効活用する唯一の方法とも思えません。たとえほかの組織で働くことになっても、学んだことが日本のために生かせるなら税金は有効に使えていると思います。

 個人が経済的に成功すれば、その人は必ず納税という形で国に貢献します。給料の安い公務員のままでいてくれるより、民間に転職して多額の給料を稼いでくれる方が国への貢献度は高くなります。それに、天下り先の確保に多額の税金を無駄遣いする必要性もなくなりますしね。

 せっかく広い世界を見たり、新しいことを学んできたりした人は、個別の官僚組織への義理立てではなく、より大きな目でそれらを還元してほしいものです。

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