女子の夢『ニュームーン/トワイライト・サーガ』VS. 男子の夢『空気人形』、どっちがイタい?映画でポン!(2/2 ページ)

» 2010年04月13日 08時00分 公開
[櫻井輪子,Business Media 誠]
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男子の夢もイタいのだ

わこ じゃあさ、『空気人形』ののぞみちゃんを取り巻く状況のイタさについてはどうよ?

佐々 いきなりキタね。『空気人形』のイタさは人間誰もが持ってるイタさだから、『ニュームーン』ほどドリーマーな感じじゃなかろう。主人公の人形が心を持って徘徊する中で出会う、都会に暮らす人々の空虚さ=傍目にイタい生活のバリエーションだから、「お前なあ〜」っていう突っ込みどころはないんじゃないかい?

わこ そういう図式で語られると、「傍目にイタくない生活って何?」って突っ込みたくなっちゃうんだけど。独居老人や厚化粧の独身女、フィギュアが恋人のオタクだとかに「痛々しさ」のレッテル貼ったりするのって傲慢なんじゃないの? 余計なお世話っていう気がしちゃうんだよね。

佐々 自分がイタいとこつかれたからって八つ当たりしないの。あの中で一番痛々しいのは何たって人形ののぞみちゃんの持ち主と、のぞみちゃんが一目惚れするビデオショップの店員、という2人の男なんだから、安心しろよ。

わこ ダッチワイフが心を持って動くようになって、男子的にうはうはなのかと思ったらそう簡単にはいかないもんだね。

佐々 「心を持ったダッチワイフとうはうは!」なんて、どこのAVだよっ。AVみたいに短絡的じゃないけど、あの2人が人形ののぞみに要求する「元の人形に戻ってくれ」も「空気を抜かせてくれ」も、男のロマン、男子の都合にそったそれなりにイタいロマンだろ。

わこ あー、「元の人形に戻ってくれ」というセリフを聞いた時は、男子の本音を垣間見た気がした。もちろん、人形としてお買い上げした物体に、いきなり「誰でも良かったの?」なんて聞かれちゃったらうっとうしくて「元に戻ってほしい」と思うのは不思議じゃないけどさ。「出会ったころの君に戻ってほしい」ってことでもあるでしょ。「空気を抜かせてくれ」の方は、「やだこの人変態っぽい、何フェチ? 何プレイ?」と思いましたが。

佐々 空気抜きプレイは、エロスとタナトスじゃろ〜! 人形にとって空気が抜けることは死ぬことと同じだからね。あのシーンは美しかった。で、「あなたの息で私を満たして」とかぺ・ドゥナちゃんに言われた日にゃあ、酸欠になろうとも息吹き込んじゃうよ、わし。

わこ はいはい、エロスとタナトスね、爺の好きそうなシーンだな。「俺色に染まれ」ならぬ「俺の息でいっぱいになれっ」みたいな?

佐々 いやそういうのでもないって。俺色に染めたいなら、人権もなく何も知らない空気人形を自分好みに育て上げるっていう選択もある。空気抜きプレイはもっとこう儀式的な感じ。死と再生の繰り返し、繰り返すうちに取り戻せない日々や失った何かが戻ってくるかのような……。

わこ そうやって語るあんたがイタいよ…。空気抜いたり入れたりするだけで死と再生を体験できるんなら安いもんだね。現実はそうはいかないもんね。  

佐々 人形が心を持ったってところがもう現実から遊離してるんだから、ある種のファンタジーだと思って許してよ。……っていうか、ちょっと待て! 『ニュームーン』のがよっぽど現実離れしてるだろ?

わこ だってあれはファンタジーが大前提だもん、「現実離れどんと来い」って感じでしょうが。『空気人形』はファンタジーなのに社会派ぶった感じが鼻につくんだよ。現代に生きる人間が皆人形みたいに空虚なわけじゃないのに、十把一絡げにしちゃってさー。

佐々 『空気人形』に出てくる人たちのイタさが集まって、街全体が何だかイタい、なぜならば今の世の中がイタいからってとこかな。イタさの所在が分散してるんだよね。

わこ そしてあんたもそのイタさを分担しとるがな。「イタさ」を分散させるとはいかにも日本的な責任回避って感じなんですけど。だったら「イタさ」を一身に引き受けるベラちゃんのほうが潔いと思う。

佐々 潔いかどうかは置いといても、ベラちゃんのがイタいってのは全面的に同意するぞ。女子の夢のほうが突っ走りだすと止まらない勢いがあるよな。

わこ 男子の夢は戦略的敗退ってことか。空気読んでるね、さすが中身が空気なだけあるわ。

ニュームーン/トワイライト・サーガ

人間の少女ベラとヴァンパイアの少年エドワードの恋を描いたシリーズの第2弾。ベラの誕生パーティーの席で指を切った彼女にエドワードの家族が襲いかかる事件が起こる。ベラの身の危険を感じたエドワードは彼女に別れを告げる。うちひしがれるベラを幼なじみのジェイコブが慰める。しかしそのジェイコブはヴァンパイアから人間を守る使命を帯びた狼男の一族だった。エドワードとジェイコブの間で揺れるベラのもとに、エドワードの身に危険が迫っているという知らせが届く(角川映画、2940円)


空気人形

性欲処理の代用品である空気人形のラブドールがある朝、心を持ってしまう。持ち主である冴えない中年男が仕事に出かけるとメイド服を着て街に出る。目にするものすべてに驚き、出会う人々みんなに興味を覚える空気人形。やがてたどり着いたビデオショップの店員、純一に恋をした彼女はそこでアルバイトを始める。日々、さまざまなことを学び吸収していく空気人形だが、ある日、店で空気が抜けてしまう事故が起こる(バンダイビジュアル、3990円)


櫻井輪子(さくらい・わこ)

映画好きが高じて、コラムを書いたりもするイラストレーター。『WOWOWマガジン』『問題小説』『てぃんくる』などでイラストコラムを執筆。『Tokai Walker』の金子裕子さんのコラム「セレブ診療所」にコマ漫画を付けている。過去には『DVD&ビデオでーた』でビデオレビューのイラストコラム、『DVDでーた』で記者会見をレポするコラム『現場から櫻井輪子でした』を連載。

著書に『「へのへのもへじ」から始める 世界一カンタン! イラスト練習帳』がある。公式サイト「SakuraiWako'sめカラうりぼう」。


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