自治体大合併が政権交代の引き金? “小沢流選挙”のしたたかさ相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年02月18日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥津軽編』(小学館文庫)、『誤認 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。


 政治のニュースと言えば、国会のある永田町から発信される情報がその大半を占めているのはご存じの通り。政治取材の経験がない筆者も国会脇にある「国会記者会館」から発信される新聞、テレビの情報に依存している1人だ。政治素人の筆者に対し、かつての同僚記者が面白い話を披露してくれたので、今回の時事日想はこれを紹介する。

 テーマは「政権交代」と「地方自治体の大合併」の相関図だ。一見、互いに関連のなさそうなキーワードだが、実は深い関係にあるのだ。また、この2つのキーワードが今夏の参議院選挙にも影響してくると筆者はみる。

町村議員の激減

相場英雄氏の新刊『誤認 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)が出ました

 この項のタイトルは自民党のベテラン議員のことではなく、「町議会」、「村議会」に所属する議員を指す。地方自治体の財政難救済や行政の効率化を図るため、1999年以降、全国の市町村が相次いで合併した。いわゆる「平成の大合併」であり、これは今も進行中だ。10年ほど前まで全国に約3000存在した市町村は現在、約1800までに減少した。この間、議員定数オーバー状態を特例で認める緩和措置を除き、それぞれの議会に所属していた町村議員も大量失職したのだ。元同僚記者によれば、大まかに2万5000人以上の「センセイ」が議員バッジを外したことになる。

 なぜ町村議員の激減が政権交代につながったのか。元同僚の話を聞き、筆者は膝を打った。新潟の片田舎出身の筆者が記憶の糸をたどると、思い当たるフシがあったのだ。

 思い当たるフシとは、市議会の議席の大半を自民党員が占めていたということだ。同時に、県議会や周辺市町村の議員の大半も自民党員だった。特に、筆者の地元は故田中角栄元首相のお膝元であり、特にその傾向が顕著だった。

 「市道にカーブミラーを設置してほしい」、「小学校の通学路に歩道橋を」――。市議会のセンセイたちは、地元有権者の細かな陳情を吸い上げ、これを関係部署につなぐことで選挙時の票を確保していたのは言うまでもない。

 元同僚によれば、こうした陳情の窓口という機能のほかに、町村議員にはもう1つ重要な役割があったという。「中央が決めた新たな制度、税制などを分かりやすく、噛み砕いて地元のおじいさん、おばあさんに説明するメッセンジャー役も果たしていた」

 実際、筆者の実家にも顔馴染みの市議会議員本人やその家族が来宅していた。その際は、近所の四方山話とともに、中央(東京)の政策やらを両親に説明していたことを鮮明に記憶している。

 が、現在は平成の大合併とともに政府・自民党の政策を末端の有権者にとどける橋渡し役の議員が激減してしまったのだ。「政治と有権者の距離が取り返しのつかないほど離れてしまった」(自民党の地方議員)ことに他ならない。自民党の選挙戦術の失敗という側面もあろうが、「地方有権者の投票行動に絶大な影響力があった自民党員の町村議員がいなくなった」(同)という要素は無視できない。

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