『蟹工船』の新庄と『ハゲタカ』の鷲津、今の時代に欲しいのはどっちだ?映画でポン!(2/2 ページ)

» 2010年02月04日 08時00分 公開
[櫻井輪子,Business Media 誠]
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『ハゲタカ』は経済エンタメだ!

佐々 じゃ『ハゲタカ』はどうなん? 資本主義がどうとかいうより、経済版『仁義なき戦い』みたいだったが。

わこ 何言ってんの!? そこがいいんじゃない! 仁義はないけど情はある経済ヤクザの鷲津と金融界の男たちの戦いが燃えるんだよ! 赤いハゲタカこと劉一華の「俺はあんただ。あんたのことをずっと見てきた」っていうセリフなんて、ヤクザ映画における「兄貴にホレてこの世界に入ったんだ。俺は兄貴みたいな男の中の男になりたいんだ」的な定番のセリフだもん。

佐々 テレビ版の時、鷲津が芝野に同じようなこと言っていなかったか? 「あなたが私をこんな男にしたんですよ」とかさあ。「非情な金融業界でずいぶんウェットなこと言ってんなあ」とその時も思ったが。

わこ だから〜っ、殺伐とした人間関係の中にわずかに情だけが残っているってのが『ハゲタカ』の萌えるとこなんだってば。本物の金融業界には情なんてこれっぽっちもないとは思うけど、これはほら、経済を題材にしたエンタメだから。リーマンならぬスタンリー・ブラザーズを破たんに追い込んだのは鷲津だったのかよ! とか突っ込みどころも満載だしさ〜。突っ込みどころに萌えどころ、もう完璧じゃない。

佐々 完璧かあ? スタンリー・ブラザーズの財務状況も調べないで中国ファンドがホワイトナイトとして食いついたりとか、そう簡単に鷲津の読み通りになるもんかなあ。「ここの世界経済、プレイヤー少なくね?」って感じだよ。

わこ そんなこと言ったら『蟹工船』だって「搾取される人生から逃れるには自殺して金持ちに生まれ変わるしかない」とか言っていた新庄が、うさんくさ〜い中国人とのほんのちょっとの会話だけで共産主義に目覚めちゃうってのも相当だよ? エンタメにしたってある程度リアリティがないと。

佐々 わし的にはあの突き抜け具合がバカっぽくていいけどな〜。

わこ ちょっと! プロレタリアート文学の金字塔をB級おバカムービー扱いしたら、各方面から叱られるよ! ああもう、嫌な汗出ちゃった……。話題を変えよう。どっちも「今の時代背景あってこその映画化」と言われてるけど、今の時代に必要な主人公はどっちだ?

佐々 むむむ、その対決は分が悪い……。新庄って労働組合のトップに据えるにはちょっと問題あるからねえ。労働争議じゃなくて暴動になっちゃってるし、いいのか? あれ。

わこ そんなこと私に聞かないでください。しかし、新庄は根回しが下手すぎる感じがしちゃったかなあ。

佐々 根回しとか、そんなことプロレタリアートは考えない。正面突破あるのみ!

わこ うは、なんか前世紀で終わった理由が分かった気がする。根回しというか下準備なしじゃデカイ山は動かないと思うの。

佐々 いいんだ、新庄は布石になったんだから。そして根本に引き継がれるのだっ!

わこ その根本役の高良健吾くんは『ハゲタカ』でも搾取される側だったけど?

佐々 うわーん、そんなところに気がつくな! 新庄が不憫(ふびん)すぎる…。

わこ その点、鷲津の人脈の幅広さはイマドキっぽいよ。アラブの王子とアラビア語で会話始めた時は、格好良すぎで鼻血出るかと思った。

佐々 まあ、実際ああいう仕事の人は人脈が宝なんだろうなあ。あ、そうだ。鷲津に金融担当大臣になってもらえよ。あの豊富な人脈で世界経済危機から日本を浮上させる鷲津。お前きっと、格好良すぎで腰が抜けちゃうぞ。

わこ うはーいいなあ……それ。でも鷲津、貧乏くじ引いてくれるかなあ? 南の島に引きこもっちゃいそう。

佐々 そしたらまた芝野に迎えにいってもらえよ。

蟹工船

カムチャッカ沖で蟹をとり、缶詰に加工する蟹工船。出稼ぎ労働者たちは劣悪な環境の中、資本家に搾取され、逃げ場のない絶望にさらされていた。そんな折、漁の最中に遭難し、偶然ロシア船に救助された新庄は、再び蟹工船に舞い戻ると、労働者たちに「行動しなければ何も変わらない」と訴えかける。そして、資本家に労働環境の改善を要求するのだが……(東映、4935円)


ハゲタカ

かつて“ハゲタカ”の異名をとった鷲津も、今では死んだと噂されるほど過去の人だ。海外で隠遁生活をしている彼のもとに、かつての盟友・芝野が訪れる。現在、彼が役員を務める日本の名門自動車メーカーを、中国系巨大ファンドの敵対的買収から救ってほしいと頼みにきたのだ。ホライズン時代の元同僚で、自ら“赤いハゲタカ”と名乗る劉一華との壮絶な買収戦争に挑む鷲津だが……(東宝、5040円)


櫻井輪子(さくらい・わこ)

映画好きが高じて、コラムを書いたりもするイラストレーター。『WOWOWマガジン』『問題小説』『てぃんくる』などでイラストコラムを執筆。『Tokai Walker』の金子裕子さんのコラム「セレブ診療所」にコマ漫画を付けている。過去には『DVD&ビデオでーた』でビデオレビューのイラストコラム、『DVDでーた』で記者会見をレポするコラム『現場から櫻井輪子でした』を連載。

著書に『「へのへのもへじ」から始める 世界一カンタン! イラスト練習帳』がある。公式サイト「SakuraiWako'sめカラうりぼう」。


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