メディアは身ぎれいか? スキャンダルの潰し方教えます相場英雄の時事日想(2/2 ページ)

» 2009年08月27日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]
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恥ずかしくて取材に行けない

 「アイバちゃん、ボツネタで悪いけど、捨てるには惜しいから書いてよ」――。

 今年春、ある企業の内部資料と取材データをベテラン記者が筆者に手渡してきた。昨秋以降の金融恐慌の過程で、ある大企業が資産運用で巨額損失を抱えたという内容だった。しかもこの企業は大メディアだ。なぜこんなにおいしいネタがボツになったのか。そのわけは、これを報じようとした側のメディアも同じ様な事情を抱えていたので、「人様のことを批判する資格がない」という理屈だった。

 当時、小説の締め切りを2本抱え、全く身動きが取れなかった筆者。友人の記者数人に事情を話したところ、既にこのネタを追跡中の向きが少なくなかった。が、結果としてどこの社も大ネタを扱うことはなかった。「ウチも穴を空けていた」(某テレビ局)、「刺したら刺し返されるという理由で局長がブルッた」(某紙)

 資産運用で巨額損失を抱えた某メディアは、日頃企業の経営に目を光らせ、舌鋒鋭く正論を展開している。このため、内部関係者からも「ウチがこんなに穴を空けていたら、恥ずかしくて取材に行けなくなる」。そう言って数人の敏腕記者が社内浄化を試みたもようだが、反省の弁はもとより、損失の存在さえ当該メディアにいまだに載っていない。

 人様のことを批判した筆者もストレート記事を出していない。よって偉そうなことを言う資格はない。だが、捨てるにはあまりにも惜しいテーマだったので短編小説『ディスクロージャー』(問題小説、6・7月号=徳間書店)のアイデアとして採用させていただいた。登場人物やエピソードの大半はフィクションだが、ストーリーのキモに据えたメディアの隠蔽体質、そして身内のスキャンダルを潰すやり口はつぶさに触れた。そしてこれに翻弄(ほんろう)される記者たちの姿もリアルに描いたつもりだ。もちろん、経済ジャーナリストという肩書きで商売を続ける以上、こうした身内のスキャンダルは追い続ける腹積もりだ。

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