メディアは身ぎれいか? スキャンダルの潰し方教えます相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年08月27日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載中。


 大企業の不祥事や政治家の不正献金問題など、スキャンダルを扱う記事が日夜メディアの紙誌面をにぎわせているのはご存じの通り。記者として“一番燃える”のがスキャンダル取材。堅い関係者の口をこじ開け、内部文書の類いをスッパ抜く……。記者冥利に尽きる瞬間だ。

 一方、正義を振りかざすメディア自身は健全なのか? こんな疑問を抱いている読者も少なくないはず。残念ながら、メディアは身ぎれいだと言い切れないのが実状だ。今回は筆者自身が知り得たお寒い実態に触れる。

揉み消しは日常茶飯事

 「◯△記者が都内ターミナル駅で逮捕された。直ちに関係部署、幹部に連絡せよ」――。数年前の深夜、某大手メディアの編集局内に衝撃が走った。

 事件の概要はこうだ。混み合った電車内で、帰宅途中の◯△記者が同じ車両に乗っていた若者と口論の末、持っていた傘で殴ってしまったのだ。酒を飲んで帰宅途中だった同記者が電車内で携帯電話を使用し続ける若者を諌(いさ)めたことが事の発端。「表に出ろ」、「上等だ」と売り言葉に買い言葉が飛び交い、駅のホームで殴り合いに発展したところ、駆け付けた所轄署員に御用と相成った次第。

 こうした事例は1日に数十件ある。通常、警視庁記者クラブではこの程度の小競り合いは記事にしない。ボツだ。ただし、被害者の負傷の度合いが深刻だったり、加害者が著名人だった場合、話は別。マスコミの感覚ならば、加害者が記者とあれば絶対に記事になる案件だが、このケースが報じられることはなかった。

 なぜか? この逮捕劇の場合、被害者が軽傷で、かつ示談成立が確実だったことから警視庁関係者が気を利かし、泊まり番記者に耳打ちするにとどめたからだという。仰天した担当記者は即座に社会部長に連絡。部長から編集局幹部数人に事情が伝えられた。その後、当該メディアはどう対応したか。社会部の幹部連が警視庁の捜査幹部に頭を下げに出向いた。記者クラブ全体に告知しなかったことに対する礼だった。日頃取材対象として対峙している相手に、自ら借りを作ったのだ。

 大酒飲みを自認する筆者、泥酔して暴れた経験は数知れない(逮捕歴はない)。故に当該記者を批判する資格はない。また、揉み消しに奔走した幹部連の心情も痛いほど分かる。記者だ、社会部長だと偉そうなことを言っても所詮(しょせん)サラリーマン。事が表沙汰になった際の管理責任を問われるからだ。

 ただ、本稿読者の大半は筆者の心情に共感しないはずで、納得もしないだろう。一般のサラリーマンが同じことをしても捜査関係者が耳打ちしてくれることはない。まして、警視庁幹部に即座に会える機会はないし、コネもない。そもそも他人の不祥事を手厳しく批判し、偉そうにしているメディアがとんでもない、と感じたはずだ。

 だが、残念なことにメディアほど他人に批判されることを嫌う組織も珍しく、隠蔽(いんぺい)に走るのだ。件の暴力事件のほか、株式のインサイダー取引は日常茶飯事。経営幹部による背任行為すらある。もちろん、表沙汰になった案件もあるが、先の暴力事件のように揉み消された案件の数が圧倒的に多いのが実状だと断言できる。

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