目立つ環境問題は姿を消し……「ライン産のサケ」が食卓に戻ることを願う松田雅央の時事日想(2/3 ページ)

» 2009年08月18日 11時49分 公開
[松田雅央Business Media 誠]

 フランスにとって遊水地整備は直接の利益につながらない。それどころか遊水地域に含まれる農地が被害を受けことになるなどネガティブな影響の方が大きい。ある程度の被害は農家と自治体の取り決めによって織り込まれているが、ここ数年は気候変動により計画を上回る頻度で洪水が起きるため訴訟に至るケースもあるという。流域6カ国がどれだけのリスクを負い、どのような役割を担い、その費用は誰が負担するのか。その調整ひとつとっても困難な作業である。

ライン川の堤防(左)、ライン川の遊水地。洪水時にはこの一帯が水に沈む(右、クリックして拡大)

次世代のテーマは水辺再生

 多くの環境問題に片がついた今、ドイツでは河川や湖沼といった水辺の環境保全に関心が集まっている。エネルギー問題や地球温暖化問題など環境問題は依然山積みなのだが、目を覆いたくなるような水質汚染や排気ガスによる健康被害など「目立つ環境問題」が姿を消し、環境保全の新たなテーマとして水辺再生が浮上してきたという事情もある。

 EU議会では2000年に「水政策に関する指針」を取り決め、「ライン2020」というプロジェクトをスタートさせている。プロジェクトの目的は「2020年に向けたライン川の持続可能な発展」。ライン川本来の持続可能性を生かしながら、環境性・経済性・社会性を考慮して川と周辺地域を整備する。広範囲にライン川の開発と環境のこれから考える国際的な取り組みだ。

 プロジェクト「ライン2020」の具体的な目標は以下の通りである。

(1)ライン川の生態系を改善

  • ライン川本来のビオトープ(地域に合った生来の生態系を保つ空間)を取り戻す。
  • ボーデン湖から北海まで、支流も含めて魚が遡上できるような河の連続性を復活させる。

(2)洪水対策と洪水の予防

  • 2020年に向け洪水の被害を25%減らす(1995年当時に比較して)。
  • 洪水時の最高水位を70センチ下げる(1995年当時に比較して)。

(3)水質の向上

  • 自然の持つ水の浄化能力を取り戻し、より自然で簡易な水道水の供給を目指す。
  • 植物、動物、微生物の成育に最も適した水質の実現。
  • 淡水魚、貝類、甲殻類を人間が食せるほど安全なものにする。
  • ライン川の浴場で再び遊泳できるようにする。
  • 有害物質を含まない砂利を採取できるようにする。

(4)地下水の保全

  • 品質の高い地下水を取り戻す。
  • 取水と地下水の回復のバランスをとる。

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