目立つ環境問題は姿を消し……「ライン産のサケ」が食卓に戻ることを願う松田雅央の時事日想(1/3 ページ)

» 2009年08月18日 11時49分 公開
[松田雅央Business Media 誠]

松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ


 今年の梅雨も日本各地で洪水やガケ崩れなど川の災害が発生した。ドイツに梅雨はなく台風も来ないのだが、それでも時折洪水が発生し、国は違っても治水の重要性に違いはない。しかしながら具体的な治水対策は随分異なり、ドイツにおいては遊水地の活用が主流となりつつある。ダムを造り堤防を高くする時代はすでに終わった。それよりも川と流域の持つ本来の治水能力が注目されるようになり、さらに川と水辺の自然再生も重点項目となっている。

国際的な治水対策

 「父なる川 ライン」は標高およそ2200メートルのスイスアルプスを源流とし、リヒテンシュタイン、オーストリア、フランス、ドイツ、オランダを抜け、1320キロメートルを流れ北海に注ぎ込む。ライン川は昔から重要な水上交通路であり、軍事的、政治的にも特別な役割を果たしてきた。

 ライン川に代表される大河川の洪水は、上流で大雨が降ったとしても下流で洪水が起きるまでにずいぶん時間がかかる。例えばスイス・アルプスで降雪の多かった年の春先。アルプスの気温が急に高くなり、そこに大雨の条件が重なると一気に雪が解け、数日後に数百キロ下流のドイツで洪水が発生する。このように「数時間で急激に水かさが増し堤防決壊」ではなく「だんだんと水位が上昇し、ついに水が堤防を越える」ようなパターンが多い。

ライン川の支流ネッカー川に架かる橋(ハイデルベルク)には洪水時の最高水位が刻まれている。確認できる最高水位は1784年2月27日の9.3メートル

 ライン川の河口からおよそ200キロ上流にあるケルンは数年に一度洪水に見舞われるが、独自にできる対策は限られ上流部での対策が必須だ。最近は川沿いの遊水機能が注目されている。例えば400キロ上流のフランスにまとまった規模の遊水地を整備すればケルンを襲う洪水の最大水位が数センチ下がり、これが瀬戸際で決定的な意味を持つとされる。堤防を無限に高くすることはできないわけで、遊水地を使い「コントロールされた洪水」を起こすことによって下流の被害を最小限に抑えるという考え方だ。

洪水で水没したケルン市街地とライン川(1993年)。並木のある部分が堤防(出典:Rhein Strom mit Beziehungen,IKSR/CIPR)
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