コラム
» 2009年08月06日 07時00分 UPDATE

相場英雄の時事日想:実録 メディアへの接待! 墜ちる記者の“分かれ目”とは (1/2)

記者に対して、さまざまな“接待攻勢”をかけてくる企業の広報マン。自社の新製品をメディアで取り上げてもらうと、かなりの効果が見込まれるからだ。しかし不祥事が発生した際は、手加減をしてもらおうと広報マンは“あの手この手”で攻めてくる。その実態とは……?

[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

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1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載中。


 本コラムで美人記者急増の背後に危うい一面が潜んでいることをご紹介した(関連記事)。今回は、男性記者が陥りやすい接待攻勢の一端を詳(つまび)らかにする。

 記者に対しては、さまざまな人間が接触してくるが、企業の広報マンの比率が格段に高い。自社の新製品や新戦略に関する記事を新聞に掲載、あるいはテレビで放映してもらうことができれば、広告費換算で相当なコスト効果が望めるからだ。また不祥事が発生した際などは、手加減をしてもらおうと広報マンは“あの手この手”で攻めてくる。今回の時事日想では、筆者が見聞きした案件をいくつか紹介しながら、記者の立ち位置について考えてみたい。

ズブズブ

 「あんたももらってたのか」――。政財界の汚職を描いた映画『金環蝕』(原作・石川達三、監督・山本薩夫)の中で、前田武彦と鈴木瑞穂扮(ふん)する政治部記者がそれぞれに同じ金無垢ライターを掲げ、苦笑するシーンがある。現金が飛び交う与党の総裁選挙の最中、政治家だけでなく周辺の記者にもさまざまな金品が渡っていたことを象徴する一場面だ。実際、政治家からもらった金のロレックスを自慢する政治部の重鎮にあきれた経験があり、件(くだん)のシーンに違和感はない。

 この映画に登場する記者のように、大半が取材先に“ズブズブ”にされているのではないか? 一般企業に勤務する友人からこう尋ねられたことがあった。筆者の答えは「イエス」だった。

 このコラムできれいごとを主張するつもりはないので、以下、自身の体験を正直に綴(つづ)る。筆者が在籍した経済部という世界は、政治家と政治部記者がピッタリと共同歩調を取ることと同様に、割り当てられた担当分野に張り付くことが求められる。取材対象とされる◯△銀行、□◯証券、または役所の動向を、責任を持ってカバーすることになるのだ。取材先との距離を慎重に測りながら事件・事故を取材する社会部記者との決定的な違いは、自ら進んで相手とズブズブの関係になること。そうでなければ、ネタを引くことなどできないからだ。

 企業が取材相手だったらどうなるか。まずは広報マンがあいさつがてらということで宴席をセットしてくれる。最近の詳細な動向は把握していないが、銀行や保険会社をカバーする日銀金融記者クラブに在籍した15年ほど前ならば、週に2〜3度は各社の広報マンたちからお声がけいただいた。銀座、あるいは赤坂界隈の小料理屋で食事を済ませ、そのあとはそれぞれの広報マンが日頃使っているクラブにハシゴするのがお決まりのパターン。

 若手記者でこの状態である。キャップやサブキャップ級はほぼ毎晩お声がかかる。接待攻勢で有名な某業界などは、同業他社の広報マン同士がシフト表を作成し、大手紙、テレビの担当記者の宴会日程を調整していたほどだ。当時、年間の記者対策予算が1億円を超えていた企業さえ存在する。

 20歳代の若造記者相手に、大企業の選りすぐりのエリート広報マンが接待してくれるのだ。当初は悪い気がしなかった。だが、これが数回続くとさすがに気が引けてくる。私1人のために、各社は1回あたり10万円近いコストを費やすからだ。あるとき大先輩に心情を打ち明けた。するとこの先輩記者はにべもなくこう言った。

 「飲み食いしながら互いの情報を探り合うことも仕事の一環。気にしていたら仕事にならない」――。だが、こうも言われた。「奢(おご)られたままでは精神衛生上よろしくないので、俺はお返しにガード下の焼き鳥屋に繰り出すことにしている」

 広報マンは会社の予算、つまり仕事で飲み食いするので、こちら側は自腹で行くという寸法だ。以降、ご接待のあとは必ず筆者の財布で焼き鳥やモツ煮を食べに行った。先輩のひと言がなければ、精神的なバランス感覚を崩していたと思うほど、経済部の仕事に接待は付きものなのだ。最近は広報対策費も減少傾向を辿(たど)っているようだが、「異動した直後、宴会日程を詰めにくる広報マンの行列をみて違和感を持った」(大手紙記者)との声は根強い。

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