若いジャーナリストの芽を摘んできたのは……この男たちだ上杉隆×ちきりん「ここまでしゃべっていいですか」(1/2 ページ)

» 2009年08月03日 11時30分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

 全10回でお送りする、ジャーナリスト上杉隆氏と謎の社会派ブロガー・ちきりんさんの対談6回目。1970年代にテレビや雑誌などで数多くのフリージャーナリストが登場してきたが、その後「若い世代のジャーナリストは育っていない」という上杉氏。こうした状況にはどのような背景が隠されているのだろうか?

結局、既得権益を守っているだけ

上杉隆氏

ちきりん 普段、私はたくさんの雑誌を読んでいます。専業主婦向けの雑誌も買いますし、シニア向けの雑誌も買う。雑誌は新聞と違って読者をセグメントしているので、その人たちの生活や関心、感覚などがよく分かるので参考にしています。

 例えば主婦向けの雑誌には、今日の晩御飯のメニューを決めて、そのためにはどの材料を買ってといった内容が多い。つまり主婦にとって、晩御飯のメニューを考えるということは大変なこと……といったことがうかがえる。一方、男性向けの雑誌にはそのようなことは全く書かれていません。自分とは違うセグメントの中で生活をしている人たちを「知る」には、雑誌はとても便利な媒体ですね。

上杉 僕は今、総合週刊誌を中心に書いていますが……考えてみると、この仕事に就くまで雑誌を買った記憶がほとんどない。秘書時代は事務所に置いてあったし、フリーになってからは自宅に送られてくるようになった。

 ちなみに僕は、自分が書いた記事は読まない(笑)。なので読者から「上杉さんの記事、読みました」と言われても「すいません……まだ読んでないんで」と答えてしまう。そうすると「上杉は本当は書いていないのでは?」といった噂が広まってしまう(笑)。

 僕は政治ネタを書いていますが、週刊誌の政治記事を読んで「やられた!」といった経験はほとんどない。それもそのはずで、政治ジャーナリストや政治評論家といった肩書きを持つ有名な方々は……ほとんど永田町で見かけたことがない。つまり取材をしていない人が大半です。有名な方たちは、自分が所属していたメディアの同僚や後輩からネタを聞いて、さも自分が取材したかのように書いているだけなんです。

 古い人たちは所詮消えていくからどうでもいいんですが、深刻なのは、若い世代のジャーナリストが育っていないことです。

ちきりん それはなぜですか?

上杉 1970年代にフリーのジャーナリストが数多く出てきましたが、結局、彼らは下の世代を育てず、潰してきたのです。なぜなら自分たちの仕事がなくなるかもしれないので、「あいつの署名を出すのはまだ早い」と、若い人たちの芽を摘んできた。そして彼らは編集部に圧力をかけ、結果、若いジャーナリストの記事を匿名にさせてきた。

 『週刊現代』の元編集長・元木昌彦さんは「若い世代のジャーナリストがいない」と嘆いていましたが、そのとき、僕はこう反論しました。

 「元木さんに申し上げるのは筋違いかもしれないが、みなさんの世代が潰してきたんじゃないですか。『月刊現代』が休刊になったのも、大御所ばかりを使って、可能性を秘めた若い人たちを排除してきたからではないんですか」と。

 どの世代でも共通かもしれませんが、人間年をとるとやはり保守的になり、自分の生活を守ろうとしますよね。だから結局、既得権益を守っているだけになり、それは記者クラブの構造とよく似ていますね。

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