食べても返金します……ロッテリア“絶妙バーガー”の戦略(1/2 ページ)

» 2009年07月17日 08時09分 公開
[安部徹也,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:安部徹也(あべ・てつや)

株式会社 MBA Solution 代表取締役

九州大学卒業後、三井住友銀行に入行。銀行にて一部上場企業などの金融を担当。退職後、ビジネススクール ThunderbirdにてMBA取得。卒業後、MBA Solutionを設立し代表に就任。現在は2万人以上のメンバーが参加する「ビジネスパーソン最強化プロジェクト」を主宰する傍ら、テレビやラジオ、新聞などへの出演や大手インターネットサイトでの記事連載、ビジネス書の執筆など多方面で活躍する。


 ロッテリアは食べた後でも返金に応じる外食産業では珍しい試みを開始した。果たしてそのマーケティング戦略の背景にあるものとは?

 ロッテリアは7月16日に「絶妙ハンバーガー」(360円)を発売した。絶妙ハンバーガーは、肉の種類や部位を厳選した上に、トマトやたまねぎなどの野菜も新鮮なものにこだわった「絶品ハンバーガー」シリーズの第2弾だ。

 ロッテリアとしては商品の品質に絶対的な自信を持って送り出す新製品だけにその販売手法にも自信の表れが見て取れる。そして「絶妙ハンバーガー」を食べてみて満足しなければ全額返金に応じるというのだ。

 全額返金保証については他の業界で見かけることはあるが、外食産業では実に珍しい試みである。食品では返品に応じるとその商品を再販するということが不可能なため、丸々損失につながる。ただ、ロッテリアでは通常商品に対するクレームが1%〜5%のために、最大でも5%程度の低い返金率を見込んでいる。

 それでは、なぜロッテリアは購入後の返金に応じるのだろうか? 実はこの手法はマーケティングでは「リスク・リバーサル」と呼ばれて、多くの業界で活用されている。実際に弊社でもこのリスク・リバーサルを行ったことがある。

 企業がこのリスク・リバーサルを活用する理由は顧客の購入に対する障害を低くすることにある。消費者というのは、特に初めての商品やサービスを利用する際に、常に不安が付きまとうものである。

 「この商品やサービスは本当に自分の望むものだろうか?」「本当に支払う金額以上の価値があるのかだろうか?」などの不安が購入をためらわせ、売り手の企業側にとってその消費者の不安は取りも直さず販売機会の喪失につながっていくことになる。

 そこで、“一度購入しても気に入らなければ返品してもOKですよ”とリスク・リバーサルを提案すれば、消費者は購入に対するリスクが全くなくなることになり、お試しとして気軽に購入できるようになる。

 現在の消費形態は消費者側に全リスクを背負わせるものになっているものが多く、購入までに大きな心理的ハードルが存在する。消費者にとっては思い切ってその大きなハードルを飛び越えなければ購入まで至らないというわけだ。

 そこでリスク・リバーサルを導入すれば“買い手にあったリスクをすべて売り手が引き受け、購入までの大きな心理的ハードルを限りなくゼロに近づける”効果が発揮される。ただ、売り手側にとっては「冷やかし客などが増えて、返品率が著しく上昇し、企業の業績に多大な悪影響を与えるのでは?」と考えるマーケティング担当者もいるだろう。

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