「家族のブランド」を生かせ! 花王「メリット」の新製品戦略それゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2009年06月29日 07時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2009年6月26日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 2009年2月26日に発売された花王の「メリット さらさらヘアミルク」の販売が好調だと6月17日付日経MJの連載記事「ヒットのヒミツ」が伝えていた。出荷数量が当初計画に比べ2割増という。記事が伝えるヒミツの、さらにその奥のヒミツをひも解いてみよう。

 記事によると、同商品は「親子で使えるトリートメント」というコンセプトが女児を持つ母親に受け入れられている、とある。

 まず、ターゲットの設定とニーズの拾い方が出色である。普通、子どもにトリートメントはしない。トリートメントは大人の女性用というイメージが強く、使用する女児は2割にとどまっていたと記事にあるとおりだ。つまり、8割が白地のセグメントが目の前にあるということなのだ。

 何というブルーオーシャン。

 しかし、はだしで暮らす先住民に靴を売るがごとく、利便性が理解されれば爆発的に売れるだろうが、理解されなければ全く売れないということになる。

 そんな女児の頭髪をめぐって、潜在ニーズが確実に存在することを花王は突き止めた。

 ターゲットは幼稚園や小学校に通う女児であるが、本人がドラッグストアやスーパーで買い求めはしない。購買意志決定者である母親がキモである。

 同社は女児を持つ母親にアンケート調査を行い、娘の髪に対して「くし通りや指通りの悪さ」「絡まる」などの不満があることを抽出した。また、実際に女児の頭髪を調べてみたところ、太さや固さが成人女性の半分程度であることが判明したという。細くて柔らかい女児の髪は絡まりやすいのだ。

 また、女児の髪型を巡る環境の変化も見逃さなかった。「その昔、女児といえばおかっぱアタマが定番だった。現在はセミロングが増え、2010年には5割を超す可能性がある」と記事では指摘している。

 もちろん、キモである母親も使える仕様になっている。親子で使えば使用量は2倍だ。

 しかし、親子で使う、細い子どもの頭髪にも合ったトリートメントなど、競合他社からも発売することができるので、そんなブルーオーシャンはいつまでも続かない。値引き合戦のレッドオーシャンの戦いにすぐなるのではないか、との考えもあるかもしれない。

 筆者は、しばらくはメリットの牙城になると考えている。メリットというブランドが築きあげてきたポジショニングと、支持層であるターゲットがしっかりしているからだ。

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