「家族のブランド」を生かせ! 花王「メリット」の新製品戦略それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2009年06月29日 07時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
前のページへ 1|2       

「家族のブランド」を生かす

 シャンプーから始まったメリットの歴史は古く、1970年の登場だ。筆者が今でも覚えているCMキャラクターは女優田中裕子。「結婚式編」では、花嫁である友人に「フケ・かゆみをおさえてお幸せに」とスピーチする。

 ターゲットは若い女性であり、「フケ・かゆみをおさえられる」という極めてストレートなポジショニングを示している。しかし、40年近くが経った今日、フケ・かゆみに悩む若い女性はほとんどいない。メリットのターゲットとポジショニングも大きく変化した。

 Wikipediaの「メリット (シャンプー)」の記述が分かりやすい。

 保阪尚輝・高岡早紀夫婦(当時)起用以降は、「新・家族シャンプー 弱酸性のメリット」とCMで宣伝される。近年は、高級化・個別化が進むヘアケア市場の中で普及品である本製品は、従来からのフケ・かゆみを防ぐ機能に加え、家族や親子での使用シーンを広告などで前面に出して、ブランドの再構築を図っている。

 CMキャラクターも、仲村トオル・鷲尾いさ子夫妻、藤井隆・乙葉夫妻と、これでもかという家族シリーズでポジショニングを明確にしている。

 ポジショニングを変更することは、失敗すれば従来の支持層を失う危険性を伴う大きな賭けである。しかし、その賭けに成功し、「家族のブランド」になったメリットだからこそ、今回の「母と娘のトリートメント」が大きな意味を持つのだ。

 今まで使ったことのない女児へのトリートメント。「本当に必要なのかしら。効果があるのかしら」と考える母親。しかし、そこは「家族のメリットなら安心ね」と、購入のハードルを引き下げる。ほかのブランドにはない安心感だ。

 さらに、今回の「メリットさらさらヘアミルク」の成功はさらなる可能性を示唆(しさ)している。「家族」という大きなくくりではなく、「母と娘」などのように家族構成をさらに細分化し、そのつながりに対応した商品シリーズ展開も可能となるだろう。例えば、「父親と息子のためのスッキリするシャンプー」などはどうだろう。

 メリットは、過去に挑戦して得たポジショニングを生かして、顧客と市場の変化、ニーズを敏感にとらえた商品を開発、今後の展開の礎まで築いた。

 あっぱれ!

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダ イヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディ アへの出演多数。 一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.