映画はこうして作られる――映画プロデューサーの仕事とは(前編)(3/4 ページ)

» 2009年06月12日 12時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

お金集めと契約

 この辺までは何となく派手に見えると思いますが、プロデューサーにとって大変な仕事はお金集めです。お金を集める場合、返さなくていいお金としていったん預かって、もうかったらお返しする「投資」が以前は中心でしたが、最近は銀行からお金を借り入れる「融資」も少しずつ増えています。融資は返さなければいけないお金なので、お金を返すためには事業を最後までやり遂げなければいけません。

 この辺りまでいって事業の全体像が見えてきたら、さまざまな契約を文書で確定していきます。日本は契約ビジネスに弱いと言われていましたが、最近は大分変わってきていて、映画でも口約束だけではなく、契約書でものを進める状況になってきました。音楽業界ではJASRACがあるので契約には昔からうるさくて、ゲーム業界もプログラムを書く人が仕事していることもあってかキッチリしています。

資金回収の方法

 この契約締結までがプリプロダクションと言われる部分で、ここからは制作や宣伝、そして公開されて皆さんの目に触れるところに入っていくということになります。公開する時、映画を作った場合には最初は基本的に劇場公開、その後、飛行機内での上映権(エアライツ)、ホテル内での上映権などを有料でやりとりします。それから映画公開直後に、スカイパーフェクトTVのペイチャンネルで1000円で見られるようにするといったこともあります。

、最近出てきているのがVOD(ビデオ・オン・デマンド)化権。ネットでの配信権で、ネットカフェなどで視聴できるといった権利で、今注目されています。そして、ビデオグラム(ビデオテープ、DVD、ブルーレイディスクなど)化があって、フリーTV化は地上波でただで見られるということです。非劇場化というのは、一般からではなく地方自治体などからお金をもらって公会堂などで上映することです。“文部科学省推薦”と書かれているような映画によくあります。

 ここまでは作られた映像を使った商売ですが、線から下は作品中のキャラクターを使って、おもちゃやフィギュアを作ったり、世界観を使ったゲームを作る権利のことです。また、ディズニーであるようなアトラクション化、ディズニー・オン・アイスも1つのアトラクションだったりしますが、そういうものを作る権利もあります。最後に翻案化というものがありますが、これは「作品を原作にして、ハリウッドで映画化する」といったことです。

ディズニー・オン・アイス公式Webサイト

 こうした契約をしていく時に、「この権利は誰が持つのか」ということを明記して、「この人たちに商売してもらって、どのくらいのマージンを返してもらうのか」「どれだけの在庫を確保して、在庫リスクはこっちがとるのかそっちがとるのか」といったことも全部契約の中で定義します。ちょっと難しいことを言っていますが、業界に入れば仕事していく上である程度の契約書のひな形は手に入ります。僕らもこの仕事を始めた時には勝手が分からなかったので、そういう仕事を生業にしている弁護士の方に顧問に入っていただいて、契約書という形でひな形を作っていただいて、各プロジェクトごとに条件を変えて、だんだん自分のひな形を作っていくという作業を3〜4年かけてしていきました。今はWebサイト上にも、いくつかこういうひな形がアップされて出ていると思います。

 これまでお話した内容をすべてこなす能力を持っているいる人はいないと思います。ただ、プロデューサーの仕事をする上では、どこかがすごく強ければ全部が専門である必要はありません。契約書は弁護士の方に頼めばいいし、開発(計画)は税理士や銀行の方にお願いして知識をもらえばいい。自分はもの作りのところ、監督と向き合って話し合いをするところに強くなろうと思うなら、そこに力を特化すればいいと思います。しかし、プロデューサーは収益を出してなんぼなので、金銭管理の部分だけは絶対に外せません。100使ったお金に対して、100以上のお金を稼ぐということは商売をする上で大前提です。

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