お宝本を探せ!――神保町の古書交換会でプロの技を見た郷好文の"うふふ"マーケティング(2/2 ページ)

» 2009年06月04日 07時00分 公開
[郷好文Business Media 誠]
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入札には駆け引きが

 古書の入札はどのように行われるのか。どの本の上にも1枚の封筒がある。例えば、敬愛する風間完画伯の水彩画集、上に置いてある封筒に買い付けたい書店主が名前と金額を紙片に記入して入れる。時間が来れば開封して、最高値を書いた書店主が落札という単純な仕掛けである。

 会場を見回していると、古書のプロたちの“ある仕草”が気になった。歩き回っては封筒に触れたり、持ち上げたり、中をチラっとのぞいているのだ。

 「中に入れた入札の札を見てもいいんですか?」

 大場さんに聞いてみた。

 「それはダメです。でもそこには駆け引きがあるんです」

 「駆け引き?」

 「札が何枚入ったか、あるいはマークしている同業者が封筒に近づいたかをチェックして、自分の札が落札できるかを見ているんですね」

 欲しい本の入札状況を察して、値を上げようと思えば“改”という文字を入れて変更することもできる。逆に自分以外に誰も入札がないようで“高すぎた”と思えば、値段を下げることもできる。なるほど、たった1枚の封筒にも駆け引きが詰まっている。

目利きの仕入れ、合理の仕入れ

 「この交換会を仕入れ場にして、神保町の裏通りの“2階”で開業する書店も増えています」と言うのは同組合の五十嵐理事。交換会で仕入れて、ネット通信販売をメインにする“事務所営業”店舗である。例えば洋書、地図、ジェンダー、レコード、特価本など特定分野に絞って、ロングテールな古書販売をバーチャルに行う。神田神保町という“住所”のブランド力を生かすのだ。

 だが表通りにせよ裏通りにせよ、書店主の命は目利き。その力を鈍らせないよう交換会に毎日やってくる店主もあれば、目利きの修行の場として後継者を同伴することもある。目利きも駆け引きも奥は深い。東京古書組合広報代行のブレインズカンパニーの横山真紀さんがそっと教えてくれた。

 「最高6枚も“改”の札を入れた人もいるんです」

 随分迷って上げ下げしたようだ……。一方、ブックオフなど古書チェーンの仕入れは、「定価の1割(またはそれ以下)程度」「売れ筋で新しいものは高め」とシンプルにしてパートでも簡単にできるようにした。超合理的な仕入れ、古書流通市場を革新して“新刊本の読み回し市場”を作った功績は大きい。だがその仕入れ値が真の価値に基づいているかは疑問。ブックオフの100円均一本を仕入れて1000円で売る人もいるというから、古本の価値は“薮の中”といってもいいかもしれない。

古書店街に繰り出そう!

 古書店街をぶらりと歩く人々は、ある意味みんな目利きだ。自分の読書歴と読書ニーズを照らし合わせて“仕入れ”をしている。ならば古書交換会の魅力をもっと伝えれば、神保町ぶらりがもっと楽しくなるだろう。明治古典会では年に1度「七夕古書大入札会」を開催、公開オークションを行っている(今年は7月3日〜5日)。この時だけは一般客が本を下見して、業者を通じて入札することが可能だ。

 さらに、手持ちの価値がありそうな本を“鑑定団”に目利きしてもらえるイベントがあれば楽しいかもしれない。ウチには1937年初版の『●(さんずいに墨)東綺譚』があるが、これは価値があるだろうか? 古書検索データベース「日本の古本屋」で調べると最高額6万円(!)とあってちょっとワクワク(笑)。

 毎日の交換会にも一般見学場ができればいい。入札風景をぶらりと見物して、古書流通のナマに触れる。築地の魚河岸見学のように“魚に触る”“マグロと記念撮影”とまでなってしまってはマズいかもしれないが、新刊本にはない“自分の目と足で探す楽しさ”を発見できるだろう。皆さん、神田神保町に繰り出しましょう!

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