都市の中に緑の山を――文化施設「アクロス福岡」ECO建築探訪(2/2 ページ)

» 2009年01月16日 07時00分 公開
[水谷義和,Business Media 誠]
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2年間の植栽実験を経て完成したステップガーデン

 アクロス福岡は、都市に面する東・西・北側はガラス、天神中央公園に面する南側は緑の“ステップガーデン”でデザインされている。ステップガーデンとは、文字通り“階段状の公園”である。建物を横からみると13段の階段形状となっており、階段状の屋上に樹木が植えられ、前面の公園から“緑の山”へ登る山道が設けられている。この道を登ると、生い茂った植物に包まれて、自分が街中の建物上にいることを忘れてしまうだろう。

ステップガーデン

 樹木が育つためには、水を含んだある程度の深さの土が必要だ。しかし、天然の土は重いため、建物の屋上に敷き詰めるためには骨組をかなり頑丈にしなければならない。屋上に大きな負荷がかかると構造的に不安定となり、建設コストもかかる。

 そこでアクロス福岡では2年間の植栽実験を経て、保水性の高い軽量の人工土壌でステップガーデンを完成させた。降った雨水は小川のごとく下り、人工土壌に保水される仕組みだ。散水装置も設置されているが、実際にはほとんど使われないようだ。

 造園技術を駆使して、四季の変化を演出する76樹種3万7000本の植物が完成時に植えられたが、10年以上経過した今日では120樹種4万本まで増やしているそうだ。シジュウカラ、ホオジロ、ムクドリなどの鳥が羽を休めるために飛来しており、一緒に運んできた種が自然を育成している。日々の植栽管理も大変な作業だと思われるが、その根本は最新の環境技術が支えているのだ。

建物に緑を加える効果

 建物の屋上に緑を創造することの環境的な効果は、大きく2つ挙げられる。1つは建物の断熱性能(保温効果)を高められ、冷暖房エネルギーを削減できる点。もう1つは、都市の熱を冷ますことに寄与できる点だ。

 夏にはだしでコンクリート道路を歩いて、やけどしそうになった経験をされたことはないだろうか? 通常、建物の屋上はコンクリート面であることが多く、夏は非常に熱くなる。熱というのは熱い所から冷たい所に移動する性質があるため、屋上の熱が涼しい室内へと移動してくる。これを冷やすために余計に冷房をかける必要があるのだ。

 マンションなどの最上階に住んでいる方は「冷房が効かないな」と感じた経験があるかもしれないが、それは屋上からの熱移動があるからだ。屋上を緑で覆うことは、屋上の表面温度を下げ、室内への熱移動を減らすことに寄与する。これにより、無駄な冷房エネルギーを使わなくて済むのだ。

 森林の中を歩くと冷やっと感じる。日射がさえぎられた木陰の中で、植物表面は露で濡れ、葉っぱから水分が蒸発しているからである。都市では、コンクリートが吸収した太陽熱を放出、ビルが冷房の排熱を放出、クルマが熱い排気ガスを放出しているが、この放出された熱を冷やす緑や水面が少ない。ヒートアイランド(都市が暑くなる現象)という言葉を耳にされた人もいると思うが、生活の快適さや便利さを追求した結果、都市は灼熱地獄となってしまった。都市に緑の山を築くというアクロス福岡の試みは、都市を冷ますという重要な役割を具現化しようとしている。

ステップガーデンの冷却効果(出典:竹中工務店)

昼間には照明が必要ない吹き抜け構造

 もう1つ、アクロス福岡の特徴的なポイントをご紹介したい。施設の中に入ると、大きなアトリウム(吹き抜け)があるのだが、ちょうどアクロス山の下にある静寂な深い洞穴に入ったような感覚になる。

 南面(ステップガーデン)から光が差し込むようにデザインされており、ともすると暗くなりがちな洞穴が開放的に感じられる。この洞穴を照らすための照明も、昼間には必要ないほど明るい。

光が差し込む洞穴(アトリウム)

アクロス福岡の将来は

 アクロス福岡のエネルギー面からみた課題は、来館者数の変動が大きいホールやアトリウムなどの冷暖房の無駄をいかに減らすかだ。必要最小限のエネルギーで快適な大空間を維持するための設備システムと運転管理をすることが大事である。

 また、完成後13年を経過しているため、設備システムの劣化が顕在化してくる時期でもある。アクロス山の育成と同様に、より高効率な設備システムへと継続的に改変していくことも重要な課題だろう。

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