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» 2008年09月23日 07時00分 UPDATE

松田雅央の時事日想・特別編:郷土食は地域の宝――ドイツ・黒い森のエコツーリズム(後編) (1/2)

ドイツ・黒い森の農家が、副業として経営する民宿。宿泊料は格安に設定しているため、長期滞在して地域の特産品を食べたり、農家の日常生活を体験する人も多いのだ。

[松田雅央,Business Media 誠]

松田雅央(まつだまさひろ):ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及びヨーロッパの環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ(http://www.umwelt.jp/)」


 秋田県なら「きりたんぽ」、香川県なら「さぬきうどん」……。

 改めて書くまでもなく、地域の特産物は観光の重要な要素である。そこでしか手に入らない食材、そこでしか食べることのできない料理、さらには季節限定のご当地料理まで、郷土食が地域の観光シンボルになることも珍しくない。地元産品の価値見直しは地域活性化につながり、経済的な効果を生む。

 それでは、特産物にエコツーリズムの視点が加わるとどうなるのだろうか。

 前編に続き、全国大学生活協同組合連合会のテーマのある旅「森の楽校」に同行した体験を元に、ドイツ・黒い森の農家民宿と郷土食について考えてみたい。

 →観光とエコロジーの両立を目指して――ドイツ・黒い森のエコツーリズム(前編)

苦しい畜産農家の経営

 黒い森の伝統的な農家の家屋は巨大だ。家屋は住居(母屋)と家畜小屋・飼料倉庫を兼ねており、昔は1軒に数世帯が住むことも多かった。

 グマイナー家がここへ移り住んできたのは200年前のこと。12年前にペトラ・グマイナーさんが農場を継ぎ、現在は森林14ヘクタール、牧草地・飼料用畑・果樹園20ヘクタールに44頭の乳牛・肉牛を飼育している。通常、この規模の畜産農家は男性2人と女性2人程度の労働力(例えば親子2世代の夫婦)を必要とし、ここではグマイナーさんを筆頭に彼女の母親、住み込みの女性、雇っている男性とで切り盛りしている。

ah_kaya.jpgah_guma.jpg グマイナー農場の家屋(黒い森の典型的な農家、左)、農場と農家民宿のオーナー・グマイナーさん(右)

 日本と同様、黒い森の酪農も状況は厳しい。燃料費と飼料価格が高騰しているにもかかわらず、牛乳の生産者価格は低く抑えられているため、つい3カ月前には乳業会社に値上げを求める酪農家の大規模ストライキが発生した。それでも乳牛は毎日乳を出し続けるから、搾乳を止めるわけにはいかない。行き場を失った牛乳を泣く泣く牧草地にまく、という悲しい光景がニュースでは流れた。

ah_usi.jpgah_tori.jpg 牧草地で草を食む牛(左)、放し飼いの鶏(右)

老後収入を確保するための農家民宿

 畜産農家にとって民宿経営は副収入を得るチャンスであり、場合によっては民宿の収入が本業の畜産を上回ることもある。母屋とは別の小さな住宅を改造し、2001年から農家民宿を始めたグマイナーさんにとって民宿は「年金のようなもの」だという。

 彼女の母親や祖母の年金は月400ユーロ(約6万2000円)程度で、とてもそれだけでは暮らしてゆけない。今のうちに投資して民宿を構え、彼女が老後を迎えても暮らしに困らないように、との考えだ。ちなみに州や自治体は農家の経営安定のため農家民宿を後押ししており、こういった改築には低金利(一般の3分の1程度)の公的融資を受けることができる。

 ところで一口に農家民宿と言ってもいろいろな種類があり、「グマイナー農家民宿」は「長期滞在型の休暇用住宅(2戸、最大定員14人)」となる。

 実際は民宿というよりアパートに近く、自分で食事を作れるよう各戸にキッチンや居間を備えている。自炊が基本でホテルや民宿のようなサービス(こまめなシーツ交換、部屋の掃除など)はなく、普通は長期滞在(例えば3泊以上)が条件。その代わり宿泊料はかなり安く、また人数が多いほど割安になる。グマイナー農家民宿の場合、基本料金(1戸)が1泊30ユーロ(約4650円)程度で1人当たりの料金が5ユーロ(約775円)。つまり、2人で借りれば40ユーロ(30ユーロ+5ユーロ×2人)、6人で借りれば60ユーロ(30ユーロ+5ユーロ×6人)といった具合だ。

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