郷土食は地域の宝――ドイツ・黒い森のエコツーリズム(後編)松田雅央の時事日想・特別編(2/2 ページ)

» 2008年09月23日 07時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]
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“心のもてなし”が成功の秘密

 民宿にもミシュランの星に似た格付け制度があり、グマイナー農家民宿の星は4つ。設備的には5つ星に相当するのだが、農家民宿が5つ星を付けるのは気が引けるため、あえて4つ星を選択した。これには「5つ星ホテルの感覚で来たお客さんに失望を与えたくない」という現実的な理由もある。鶏が放し飼いされ、民宿のすぐ隣が「家畜のふん置き場」になっているなど、農家民宿を“少々誤解して来る人”には不評を買うかもしれないからだ。

 同様に農家民宿を経営する知り合いは宿泊客の少なさを嘆いているそうで、農家民宿の経営も苦労が多い。しかし、グマイナーさんの農家民宿の利用は2戸とも年間300日を超えるというから、なかなかの営業成績といえる。宿泊料を低めに設定し、“心のもてなし”をモットーにすることでリピーターの獲得に成功しているのだ。

農家民宿の台所(左)、農家民宿の寝室(右)

絶品の自家製ハム

 前述のように農家民宿に夕食はないのだが、食料品を買う時間のない我々は特別に夕食をリクエストした。自家製ハムの素朴だが深い味わいと、採りたてトマトのみずみずしさ。ごく簡単な食事なのに病み付きになるほどうまい。

 普段チーズを生産することはないが、搾乳した牛乳の保存タンクの冷却スイッチをうっかり入れ忘れた“事故時”には、仕方なくチーズを作るそうだ(勝手に発酵が始まってしまうため)。

黒い森の夕食

 グマイナーさんは副業として、果樹園で収穫したリンゴやナシで果実酒を醸造し、畑や森で収穫したベリー類を漬け込んでリキュールを作っている。自家製ハム、果実酒、リキュールとも小売店に卸すほどの量はないため、販売は口コミが中心だ。ほかの現金収入としてはクリスマス用の飾りがあり、これはシーズン前に300個ほど手作りする。

 グマイナーさんは手掛けていないが、ゲンゲンバッハはブドウの産地でもあり、ワイン醸造も盛ん。昔からワイン産地は経済的に豊かで、ゲンゲンバッハも例外ではない。時代とともに状況は変わったものの、黒い森のワインの国際評価は着実に高まっており、今もブドウとワインが重要産業であることに変わりはない。

黒い森のビオ(有機栽培)ブドウ(出典:Weingut Stadt Lahr、左)、ゲンゲンバッハ・ワイン醸造組合の直販センターに並ぶ地元産ワイン(右)

農家の生活=エコツーリズム

 グマイナーさんにとってのエコツーリズムとは、日常生活そのものであるという。大自然の中で自分の納得する野菜や果物、食肉、牛乳、卵、果実酒、リキュールを作る生活。宿泊客にそういった農家の日常生活を体験してほしいそうだ。

 化学農薬などを全く使わないビオ農家(有機農業農家)の認証を取れば、農畜産物を高い価格で売れる。だが、グマイナーさんは「完璧なビオ農業・畜産をするのは手間がかかるし、リスクを減らすためどうしても農薬や化学肥料を使わなければならない場合もあります。ですから認証は取っていません」と話す。しかし、「ここの農業や畜産の方法は、ほとんどビオ農家と変わりません」という彼女の言葉に自信がにじむ。

 宿泊客の中には、滞在が終わって「家に帰りたくない!」と泣き出す子どももいるそうだ。子どもだけでなく、大人にとっても「昔あこがれた自然の生活」を体験させてくれるのが農家民宿。筆者もグマイナー農家民宿のリピーターになりそうだ。

グマイナー農場の愛犬チョー
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