初めての不動産売買(3)――マンション売却なんて、もうこりごりだ保田隆明の時事日想(1/2 ページ)

» 2008年05月29日 09時53分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

著者プロフィール:保田隆明

外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「いちばんやさしい ファイナンスの本」「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」「投資銀行時代、ニッポン企業の何が変わったのか?」「なぜ株式投資はもうからないのか」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv/ブログ:http://wkwk.tv/chou


 →初めての不動産売買(1)――中古と新築、どちらがいいのか?

 →初めての不動産売買(2)――新築マンションに住まずに売ることになったワケ

 →初めての不動産売買(3):本記事

まずは売却益を狙いに行くが……

 さあ、いよいよ物件の売却である。以下、時系列で流れを説明しよう。

2007年秋

 売却の仲介業者を選定

2007年12月

 物件が完成し引き渡しを受ける。と同時に売却に出す。

 売却希望価格は、最初なので少し強気の値段を設定し購入価格+13.9%。「この値段で売れたら売却益がたくさん入ってくるね〜。そのお金で何をしようか?」と妻と盛り上がっていた。

2008年1月下旬

 不動産業者から「少し価格を下げた方がいいですね」と連絡あり。不動産売買市場は3月がもっとも物件が動く時期なので、そこから逆算するとそろそろ強い引き合いが欲しいという。年明け以降、不動産市況の悪化のニュースが連日新聞を賑わせていたこともあり、こちらも気が気でなかったので、この価格引き下げにはすんなり合意。もともとの提示価格が強気だったこともあったので、売却希望価格を購入価格+5.8%にまで一気に引き下げた。これは購入価格を上回る数字とはいえ、不動産業者への仲介手数料(3%)と物件の登録にかかった費用や管理費などを考慮すると損をしないギリギリのラインだ。

専任媒介か一般媒介か

2008年2月上旬

 価格を下げても引き合いが増えないことに業を煮やして、仲介不動産業者を1社から4社に増加する。

 仲介業者を何社にするか? 実はこれが大きな意味合いを持つ。1社だけに任せる専任媒介の場合、物件が売却されればその1社に確実に仲介手数料が落ちるので、仲介業者はチラシをまいてくれたり、広告に載せてくれたりして、一生懸命物件を販売してくれる。しかし1社にしかお願いしない分、リーチできる購入希望者数は限られる。複数の業者にお願いする一般媒介にすると、リーチは広くなるが、不動産業者にとっては一生懸命販売活動をしても、他の業者が購入者を見つけてしまえばそれで終わりなので、専任媒介に比べると販売への力の入れようが低くなる(と言われている)。

 当初は仲介業者のモチベーションを高めるためにも専任媒介にしていたのだが、さすがに2月になると焦りも出てきたので、一般媒介に切り替え4社に増やした。

2008年2月中旬

 急に物件の引き合いが良くなってきて、内覧の回数が増加。仲介業者を増やしたのが良かったというよりは、やはり3月末を前にして市場全体が少し盛り上がっていたようである。

同日に購入申込が2つ!

2008年2月下旬のある日曜日

 別々の不動産業者2社から、数時間違いで「購入希望者が見つかりました」と連絡が入る。「やったー!これで3月末までに片付くぞ」と内心ホッとする。ただ、両社とも「価格をもう少し引き下げることはできませんか」という相談つき。このタイミングを逃してはならないと思い、本当のギリギリのラインである購入価格プラス3.5%まで引き下げても構わないと伝える。この水準だと、仲介手数料や諸費用など差し引くとこちらはネットで損をしてしまうわけだが、少し損をするレベルにすることで「もうこれ以上は本当に価格を引き下げることはできないぞ」と購入希望者に意思表示をすることが目的であった。

 結局、A社からは購入価格プラス3.5%の金額で申込が入ったが、B社はそこから更にマイナス100万円で申込。迷うことなくA社の顧客に売却することを決定。資金力も勤務先企業もしっかりしており、優良顧客のようだ。

翌日(月曜日)

 不動産業者A社と契約書締結の日程や、当日に持参する必要書類などを電話にて打ち合わせ。万事順調。

まさかのどんでん返し

翌々日(火曜日)

 A社から「購入予定者が、いまさら200万円の値下げを要求してきた」と連絡が入る。話を聞くと、「申込時はいい人だったのに、『値切るのが業者の役目だろ』と態度が180度変わってしまった」とA社にとっても完全に予想外だったようだ。200万円値下げするなら、B社からの申込みの方が100万円高い。しかしB社の顧客に売却すると、こちらの損失が100万円拡大する。損を拡大してまでこの時点で売却すべきなのか、売却希望価格で申し込みが入るまでもう少し待つべきなのか迷ったものの、待てば待つほど不動産市況は悪化していきそうな雰囲気だった。しかも、このタイミングを逃せば、3月末までの売却は実現しそうにない。「もう背に腹は変えられない。損が拡大してでも売るべきだ」と決断。B社に連絡を入れ、売却の意向を伝える。

 B社は喜び勇んで飛びつくと思っていたが、「え? そうなんですか? もうこちらのお客さんはこの前の価格競争で負けてスッキリしていたので、もう気持ちが離れているかもしれませんよ……」とつれない反応。「アブハチ取らずとはまさにこういう状況を言うのか?!」と頭を抱えたが、最終的にはこのB社の顧客が物件購入をすることとなった。

 物件価格で損失を拡大することとなった私は、不動産仲介手数料を値切るためにB社と交渉開始。3.0%の手数料を2.7%に減額してもらうことに成功した(これは後で分かったことだが、どこの仲介会社でも0.3%分(=手数料の1割)までなら営業現場の裁量で値引いていいことになっているようだ)。仲介手数料が2.7%になったところで損失を全額カバーするには至らないが、気持ち的には相当楽になり売却に前向きになれたことは事実である。

 このB社顧客との契約は、10日後の月曜日の大安の日に設定された。先方が大安にこだわったらしい。しかし、こちらはその日は都合がつかなかったため、当方は金曜日に契約書に捺印し、それに先方が翌月曜日に捺印し契約を完了とすることとした。別に当方が日曜日に捺印し、先方が翌日月曜日に捺印しても良かったのであるが、不動産業者によると購入希望者は週が明けると気持ちが変わることが多々あるそうである。したがって、金曜日のうちにこちらが契約書に捺印してしまうことで「もう売買は完了した」という証拠めいたものを作ってしまうことで購入者の気持ちを週末の間も高めておこうという作戦でもあった。

契約書捺印日

 不動産業者に行くと、「ご成約おめでとうございます」というメッセージを書いた花がテーブルに飾ってあった。たくさん書類にハンコを押してサインをし、契約作業を終えた。あとは週末をまたいだ月曜日に先方が契約書に捺印すればすべて完了ということになる。ただ、前回のどんでん返しの経緯もあったこと、この契約直前のタイミングになって先方は現金ではなく小切手で支払いたいと言い出したことなどもあり、まだ完全には安心できない。先方の捺印作業が完了するまでは、何が起こるか分からないのだ。

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