2人の編集長が語る“Web媒体の魅力”――GLOBIS.JP×Business Media 誠女性編集長のホンネ対談(2/4 ページ)

» 2008年05月14日 11時20分 公開
[聞き手:房野麻子,Business Media 誠]

掲載後にも多方向に成長を続けるWebのコンテンツ

――こんなに簡単に記事を交換するというのは、雑誌のような紙媒体にはなかなかできないことですよね

吉岡 そうですね。私は紙媒体出身なので、こういう体験は得るものが大きくて嬉しいです。

加藤 版権とかタイムラグといった杓子定規の議論ではなく、「どうしたら、お互いにハッピーになれるか」という立ち位置からコンテンツの利用を考えられることが、とても前向きでいいですよね。私も紙媒体出身なので、凄くビックリしつつ楽しんでいます。

――紙媒体にないWebの利点は、どんなことだと思われますか?

加藤 1つは、仕上がり的に80点のものでも、とにかく出して、お客様の評価を問えるところ……。こう言うと半端なものを作っているようですが(笑)、読み手に考える余地を残す作り方をすると、書き手と読み手が議論して、そのうちにコンテンツが膨らんでいくことが最近よくあるんです。私たちはGLOBIS.JPで育ったコンテンツを、いずれ書籍や講義に応用する、という考え方でやっているので、このプロセスは非常に魅力的に感じます。また、アクセス数などから読み手のコンテンツへの関心を、ある程度までは計測できますので、出版前に採算性を図る指標としても活用しています。

吉岡 誠では原則として紙媒体を出していないので、今のところ書籍のような形にはなっていないのですが、読者の反応を見ながら試行錯誤していけるというのは、Webならではの特徴だと思っています。はてなブックマークやブログからのトラックバックで、読者のコンテンツに対する反応や考えを見ることができるわけですが、それを読むことで書き手の刺激になることがあるんですよね。

加藤 それは本当にそうですね。

吉岡 そのフィードバックを取り入れながら、コンテンツを膨らましていかれる、というのはとても面白いと思っているんです。もし可能なら、私が書籍の編集者もやって、連載した記事を書籍化してみたいくらい。

加藤 よく分かります。グロービスには幸い書籍の編集を専門に行っているチームがあるので、Webの連載開始時から、そこの担当者が加わって出版に向けて協業したり、あと、カンファレンスやセミナーを運営するチームもあるのですが、そちらと一緒にコンテンツを作ってリアルとWebの双方で発信したりと、1粒で2度も3度も楽しむことを意識しています。

吉岡 それはいいですね!

加藤 メディア専業ではない会社なので、そこは“前例”などに捕われず、いろいろチャレンジできています。

吉岡 誠としては、出版社と一緒に組んで動くのが現実的かもしれません。もちろん、グロービスさんの書籍チームと組ませていただければとても嬉しいですけど(笑)

加藤 私たちも出版機能は持っていませんので、あくまで著者として中身を作るまでの機能を担い、印刷やら書店営業やらといった出版の中核の部分は出版社さんに頼っています。今回のような記事の相互掲載もそうですが、餅は餅屋というか、細かな機能別に適宜、柔軟に分業体制を組めるのがWeb時代の面白いところですよね。得意分野を出し合って社会的価値をみんなで作るというか。

吉岡 Webメディアはまだまだ発展途上だし、実験できるし、他のメディアとの組み方も色々な可能性があると思っています。さまざまなアライアンスを探りながら、面白いことをやっていきたいという気持ちは強くあります

Webの利点を生かし、サイトの価値を高める

吉岡 Web専業媒体、とくにITmediaという専門性が高いニュースサイトの記者出身という身ですので、Web媒体のありかたや特徴について思うところはいくつかあります。

 Webの大きな3つの特徴は、1つに「速報性」、2つ目が「アーカイブされること」、3つ目が「ボリュームに制限がないこと」ではないかと思っています。ITmediaは従来、この3つを重視して育ってきた媒体なわけです。でも誠では、これまでのITmediaの各チャンネルほど速報性は重視せず、その代わり読み物媒体に近いありかたを目指しています。公開した記事は、私たちは責任を持ってアーカイブする。“記事を消さない”というのは、商業Webメディアとしての使命ではないかと思っています。URLひとつで、何年も前の記事にでも遡れる便利さは、Webならではの大きな利点ですから。

 また、ボリュームに制限を付けないというのは、「はしょらない」という意志でもあります。記者が知り得たことのうち、どの部分が、読者にとってのメリットになるか分からない。だから、読みにくくならない程度に、できるだけ1次ソースになれるよう、情報はできるだけ詳しく、たくさん書くことを心がけています。エッセイとかコラムもそうですよね。考えができるだけまっすぐ伝わるように、はしょらず丁寧に書く。Web上にソースがあるものなら、リンクを張ったり引用したりしてソースを示す。そうすることで、記事を読んだ人にも一緒に考えてほしい、という気持ちがあるためです。誌面に制限がない、というWebのメリットを、こういう形で生かしたい。

 特に顕著だと思うのはインタビューです。紙面の都合があると、「30分以上話を聞いたけど、使うのは一言だけ。前後の文脈は無視して切り出す」ということが起こり得ます。でもそれは、インタビューを受けてくれた方に対して失礼だし、こちらとしても、そういうことをしたいんじゃない。取材を受けてくれた人にも、読者に対しても、誠実であるということが、私にとっては「丁寧に詳しく書く」なんです。これは「誠」という名前に通じる部分でもあります。これが私の考えるWebの良さです。新聞やテレビに対する特徴といえるかもしれません 。

――誠の読者は、長い記事でもちゃんと最後まで読んでくれる人が多いそうですね

吉岡 そうですね。インターネットは能動的なメディアなので、それが「知りたい、読みたい」と思う内容ならば、丁寧に読んでくれるものだと思うんです。最近だと白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」という記事を掲載しました。これは前中後編それぞれが非常に長く、とてもボリュームのある記事でしたが、多くの人が最終ページまで読んでくださっています。編集側としてはとてもうれしいですね。

加藤 「アーカイブする責任」って大切ですよね。紙媒体をやっていた者からすると、そもそもバックナンバーを置いておけることが、感動的だった。コンテンツがデータベース化していって、時には他媒体のコンテンツとも相互に紐付きながら付加価値を高めていかれる。とりわけ、私たちが出しているような経営学関連のコンテンツは、即時性が求められない内容が多い分、長い時間、放っておいてもあまり陳腐化しないんです。以前、PC誌の編集をしていたとき、“読者が成長してしまう”ことが悩みの1つとしてありました。例えば「エクセルの使い方」についての連載講座を掲載するとして、例えば10回くらい進んだところで購読を始めた方は、その内容を「レベルが高すぎる」と感じます。では、初学者に向けて新たな連載講座を作ればいいかというと、それは昔からの(成長してしまった)ロイヤルティの高い読者にとっては「物足りない」内容となってしまう。こうして生じる読者間のレベル差をどう埋めるかが、常に課題でした。ところがWebであれば、お客様がご自身の学ぶスピードに合わせて、バックナンバーから適切なものを選ぶことができる。「Webはスピード感」という一般的な感覚とは全く逆に、スローフードならぬスローコンテンツ化できる、そういう面白さを最近、感じ始めています。

 それから、吉岡さんのお話を聞いているうちに私も、もう1つ、Webの利点に思い至りました。それは、すぐに多言語対応できるところ。これは嬉しかったです。Webは、紙媒体などと違ってチャネルが複雑ではない分、「バイリンガルにしよう」と思ったら、その瞬間から日英対応のメディアになれてしまう。グロービスは来年から英語のみで取得するMBAコースも開始するのですが、これに備えて記事の翻訳を一部、始めてみたんです。ただ、プロに翻訳料を払うほど余裕はないので、読者から翻訳ボランティアを募った。そうしたら、いきなり10名ほどのボランティアチームができてしまったんです。こうした、作り手と読み手の境界線の低さと、そうはいっても作り手がプロとして仕事の精度を上げていくことの両立。私がWebを楽しんでいるのは、そうした部分にもあるかもしれません

吉岡 多言語化は面白そうですね。

加藤 まだ成長途上のメディアだからできることかもしれませんけどね……。

吉岡 いやいや、うちもできれば出したい、中国語版とか。私は読めないですけど(笑)

加藤 ビジネスモデルがどうこうとかいう以前に、まず、知らない土地を開拓に行こう! みたいな感覚を持てるんですよね。Webなら命がけで海を渡らなくても、全財産を投じなくても、グローバル展開できちゃうから(笑)

――確かに紙媒体よりは、フットワークが軽いイメージがありますね

吉岡 やってみよう! と思ったら、すぐ動けるのは、Webのいいところですね。

加藤 そう。小規模の投資で経験値を高められるので、若い編集者の教育効果などもあると思っています。

 誠は、すごい勢いでいろんな企画が立ち上がりますよね。アンケート調査の記事とか、吉岡さんの人柄というか、パーソナルな香りもあって楽しい。紙媒体もそうですが、編集者のキャラクターが出ている媒体は愛されますよね。

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