涙の会見後、何が起きたのか――白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」(後編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(5/6 ページ)

» 2008年05月09日 20時45分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

(3)源泉湧出量に見合った衛生管理

 さらに白骨バブルによりお客様が殺到した時の衛生管理に対する考え方も明確だったと言える。一般に「源泉かけ流しは清潔で安全」と思われがちだが、必ずしもそうではない。湧出している源泉の量と入浴客の延べ人数とのバランス次第で、清潔にも不潔にもなり得る。

 白船グランドホテルで使用している2本の源泉の湧出量は、残念ながら、増え続ける入浴客の数と見合いそうになかった。湧出量から言って毎日お湯の総入れ替えをすることは難しい中で入浴者数がそのまま急増するならば、いずれレジオネラ菌などの問題発生を懸念せざるを得まい。

 こうした場合、3つの選択肢がありえる。第1は「一日限定○組の宿」という超・高級旅館に鞍替えするなど、顧客数を制限する。第2は知らん顔して、そのまま営業を続ける。第3は温泉成分の変質・劣化というマイナス要因を、あえて甘受して塩素の注入を行う。

 白船グランドホテルは、迷わず第3の道を選択した。すでに近代的大型旅館として建設・運営している以上、第1の選択肢は現実的ではない。そうなると、第2もしくは第3のいずれかの選択となるが、同館は第3を選んだ。この塩素注入は一見、(1)と(2)の泉質保護と矛盾するが、宿泊客の安全確保はすべてに優先すると判断したのだろう。

(4)湯船の温泉成分・効能を表示

脱衣場の入口には、給湯方式などを明記したポスターを掲げている

 日本の温泉旅館の大多数は、温泉ブームの中で旅館・ホテルの数が源泉湧出量に見合わないほど増え過ぎてしまったこともあり、源泉かけ流しではなく、濾過(ろか)循環方式を採用している。

 簡単に言えば、少ない源泉を何度となく使い回すシステムである。一度使った湯は入浴者たちの毛、垢、脂、分泌物、雑菌で著しく汚れている。そのため濾過してきれいにし、通常、加水・加温・塩素注入をして、再度、湯船に送出する。そこで汚れた湯を、また同じように濾過・加水・加温・塩素注入して湯船に送る。この循環を繰り返している。

 しかしこの方式は、清掃が十分でない場合、レジオネラ菌の繁殖につながる危険性がある。ここ数年、レジオネラ菌での死亡事故が各地の温泉施設で報告されているが、それらはすべて、この濾過循環方式によるものである。

 それに循環湯には、もはや温泉としての効能は期待すべくもない。しかし2004年当時の温泉法では、湯船での成分については何ら明確な規定がなかった。そのため、その盲点を突いたか、濾過循環方式を採用している温泉旅館には、脱衣所付近に源泉の成分・効能を掲示し、あたかも、その湯船の湯にそれだけの力があるかのような誤解・錯覚を入浴客に与えるようなことをしているところが多かったのである。

 それに対して白船グランドホテルでは、最初から湯口(湯船におけるお湯の湧出口)での温泉成分・効能を明示していた(2005年2月、温泉法が改正され、湯船の湯に関し、循環・加水・加温・入浴剤利用・消毒薬利用の有無についての掲示が義務付けられた)。

 今なお逆風の中に置かれている白船グランドホテルであるが、上記(1)〜(4)に関しては、一定の評価がなされても良いのではないだろうか?

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