涙の会見後、何が起きたのか――白骨温泉・若女将が語る「事件の真相」(後編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(4/6 ページ)

» 2008年05月09日 20時45分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

事件はまだ終っていない、白船グランドホテル宿泊経験者に向けた対応策

 入浴剤投入の象徴的存在のようになってしまった白船グランドホテルとしても、独自の情報発信が望まれるだろう。というのも白骨温泉に行ったことのない一般生活者と同様に、白船グランドホテル宿泊経験者の多くにとっても、「事件はまだ終っていない」からである。

 ゆづるさんからお聞きする限り、事件後に行った主要な顧客対応は、感情を害し、抗議してきた宿泊経験者に対するおわび行脚である。換言するならば、ことの成り行きを静かに見守っていた物言わぬ好意的宿泊経験者たちは、2004年7月当時で心の時計が止まってしまい、そのまま今に至っているということである。

 白骨温泉旅館組合内での微妙な立場も影響してか、事件後は組合の決定事項に粛々と従い、自らは積極的に情報発信してこなかった白船グランドホテルであるが、同ホテルの宿泊経験者から見れば、組合がWebサイト上に何を発表しようが、正直言ってあまり興味はない。別に組合の幹部の方々と面識があるわけでもないし、組合の施設に泊ったわけでもないからだ。

 そんなことよりも「宿泊した際、あんなに良くしてくれた、あの若女将や、あの仲居さんたちは元気で頑張っているのだろうか? 事件後、同館として、どのように立ち直りを図っているのだろうか? 温泉はどうなったのだろうか? それにおいしかった食事は?」という感情の方が圧倒的に強いのである。

 一部の白骨ファン層は、白船グランドホテルを盛り上げようと、事件後、積極的に同館を訪ねたことだろうが、そういう人たちの行動力だけでは限界がある。やはり、大多数を占める物言わぬ好意的宿泊経験者たちに対する積極的な情報発信を通じて、彼らの心の中にくすぶり続ける2004年7月の事件を完了させる必要があろう。個人客へのきめ細やかな対応が、そうした面でも今後望まれるのである。

白船グランドホテルの経営、再評価されるべき「経営システム/業務プロセス」

 日本社会、とりわけマスメディアの特性として、持ち上げるだけ持ち上げておいて、いったん何かあると完膚なきまでに叩きのめす傾向がある。まさに「坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い」である。

 白船グランドホテルは偽装発覚後、そうした批判にさらされたわけだが、しかし、客観的かつ公平に見る限り、その経営手腕には驚くべき点が多々あることは間違いない。

 創業社長が当時構想した宿のコンセプトや現代的センスに富んだ機能の数々は、来るべき秘湯ブームにおける顧客の「ウォンツ(=Wants、潜在欲求)」を読んだものだった。だからこそ白船グランドホテルは、その後の白骨バブルで中心的位置に立ち得たのであろう。

 また、次の(1)〜(4)に見るように、「経営システム/業務プロセス」の数々も、当時としては卓越したものであったと言える。

(1)2源泉の分離使用

 建設当初は白船グランド源泉と、新宅源泉を混合して湯船に出していた。しかし、宿泊者数急増に対応して風呂場の改装(拡張)を実施した際に混合泉を止め、白船グランド源泉を露天用、新宅源泉を内風呂用に分けた。この決断は、色合いや成分の微妙に異なる各源泉の特性・効能を大事にしたものと言える。

(2)熱交換システムによる間接的加温

 白骨温泉全体にいえることだが、源泉温度は高いとは言えない。こうした場合の対応としては手を加えないことが大事として、ぬるいままで出す宿もあれば、いきなりボイラーで沸かすという宿もある。前者は、特に湯温が大幅に低下する露天風呂では寒いだけで入浴の快適さからはほど遠いし、後者は泉質への影響が懸念される。

 そういう意味で設備投資に多少のコストがかかっても、熱交換システムによる間接的な温度調節が望ましいという意見がある。白船グランドホテルでは、この熱交換システムを導入している。

白船グランドホテルのボイラー室では、熱交換システムで湯の温度設定をしている

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