インタビュー
» 2007年12月26日 23時17分 UPDATE

神尾寿の時事日想: “ANA=Edy”ではない――全日空に聞く「JR東と組んだ理由」 (1/2)

ANAとJR東日本はクレジットカードや旅行業務における提携を発表、Suica搭載の提携カードを発行する。しかしこれまでANAのマイレージプログラムは「Edy」と親和性が高いイメージが強く、このニュースを驚きをもって聞いた人も多いはずだ。なぜJR東日本と提携するのか? その狙いをANAに聞いた。

[神尾寿,Business Media 誠]

 12月6日、全日本空輸(ANA)と東日本旅客鉄道(JR東日本)が営業面における包括提携を行うと発表した(参照記事)。詳しくはニュース記事に譲るが、この提携はANAマイレージクラブとSuicaの連携、提携カード「ANA Suicaカード」の発行、営業窓口の連携など多岐にわたるものだ。

 ANAとJR東日本の提携はどのような狙いで成立したのか。また、ANAのマイレージプログラムはどのような方向に進むのか。

 今回の時事日想は特別編として、全日本空輸営業推進本部マーケティング企画部主席部員の吉田亮一氏と、営業推進本部顧客マーケティング部アシスタントマネージャーの奥山茂雄氏にインタビューを行った。JR東日本との提携、マイレージプログラムにおける変化と今後の展望について聞いていく。

ANAマイル、10年目の原点回帰

ay_ana01.jpg 全日本空輸営業推進本部顧客マーケティング部アシスタントマネージャーの奥山茂雄氏

――航空会社のマイレージプログラムは広く普及し、「マイラー」という言葉を生むほどにまでなりました。一方で、ANAは来年、マイレージプログラムを大きく改訂します。現在、マイレージを取り巻く環境はどのように変化してきているのでしょうか。

奥山 ANAのマイレージプログラムは今年、ちょうど開始から10年が経過しました。この10年で、航空会社のマイレージ制度やアライアンスの普及、マイルの連携・交換スキームの発達など、(マイルを取り巻く)環境は大きく変化しています。

 例えば、10年前を振り返りますと、電子マネー「Edy」のようなものは存在せず、様々な形でのマイル獲得や交換のスキームは存在しなかった。航空会社のマイルは、あくまで(飛行機に乗ることによる)「搭乗マイル」が中心だったわけです。

――ANAのマイルは異業種連携スキームを発達させることで、いわゆる“ポイント・マイル”の世界で存在感を強くしていきましたね。「陸マイラー」という言葉が生まれるほどに。

奥山 ええ。家で例えるならば、(ANAのマイレージプログラムは)リフォームを繰り返しながら拡張してきたようなものです。10年前の仕組みを拡張し続けてきたために、サービス的・ビジネス的な不整合や矛盾が見られたことは事実です。

 そこで来年に向けたマイレージ制度の改定では、もう一度ANAのビジネスの中でマイレージプログラムを見直し、新たな時代に合わせたものに作り替える。(マイレージプログラムの)リフォームではなく、建て替えをしたいと考えています。

――新たなマイレージプログラムの狙い、コンセプトはどこに定めているのでしょうか。

奥山 一言でいえば、本来のFFP(フリークエントフライヤーズプログラム)への回帰です。初期のマイレージプログラムは「飛行機に乗っていただく」ことに対するサービス還元だったのですが、日本ではマイルがよい意味で広く普及した結果、相対的にこの部分で感じていただくメリットが弱くなってしまった。

 我々としてはもう1度原点に返り、(搭乗する)「お客様重視」でマイレージプログラムや上級会員制度を作り替えました。これにより飛行機に乗る方、特に多く乗るお客様ほどメリットが大きくなる仕組みになります。

――最近はマイル連携や交換スキームばかりが注目されていましたが、本来の「搭乗マイル」の部分を強化し原点回帰する、と。

奥山 飛行機に乗っていただくことが、まさに我々の本業ですから、そのためのマイル制度としてサービスを強化します。マイルの連携や交換も、本来の姿は(飛行機の)多頻度利用のお客様に貯まったマイルをより効率よく活用していただくものでしたから、そういった方向性でのサービス強化は今後も続けていきます。

JR東日本と包括提携した狙い

ay_ana02.jpg 全日本空輸営業推進本部マーケティング企画部主席部員の吉田亮一氏

――今回、JR東日本と包括提携をしたわけですが、提携における「ANA側の狙い」を聞かせてください。

吉田 戦略的な狙いとしては、本業である航空事業の強化があります。とりわけ国内線では、(JR東海の)東海道新幹線との競争が激しくなっていますので、この部分での競争力強化を考えています。

 サービス面では、すでに(新幹線に対する)競争力強化の取り組みは始まっていて、分かりやすい例としては国内線の全空港におけるSKiPサービス導入があります(参照記事)。従来の航空券を廃止し、チケット情報を電子化。QRコードや(FeliCa)ICを使って飛行機に乗れるようにすることで、搭乗しやすい環境作りを進めてきました(参照記事)

――確かにSKiPサービスは便利ですね。私も国内出張でよく使いますが、チケットの管理がいらず、搭乗までのステップが少なくなるので助かっています。

吉田 SKiPサービスもそうですが、我々は「簡単・便利なサービス」を実現したいと考えています。飛行機も公共交通の1つですから、これは重要な取り組みです。

 このような取り組みを我々は「総合輸送戦略」と呼んでいるのですけれども、この戦略の中に"ANAが提供できないエリアのサービスを拡張する"というものがあります。電子マネーとの連携や、今回のJR東日本との提携も、この戦略に含まれます。

――なぜ、JR東日本を選んだのですか。

吉田 まず「輸送」という面で見れば、首都圏でSuica/PASMOの相互利用がスタートし、Suicaは関西のICOCAエリアでも使える。ANAの事業から見ると、(関東・関西間で)発地だけでなく、着地してからも移動で使える。電子マネーとして駅や駅周辺の加盟店も多い。これらとのシナジーは、ANAのお客様のサービス向上に繋がりますから、我々にとって魅力的な部分です。

 またもっとベーシックな部分として、JR東日本が持つ“首都圏の基盤”は大きな価値があります。例えば、今後発行するANA Suicaカードは、JR東日本の協力を得ながら会員獲得・利用促進ができます。こういったビジネス全般において、大きなシナジー効果が見込めます。

――SuicaとSKiP(AMC)は同じFeliCa上のサービスですし、ANAとJR東日本が提携すれば、移動サービスのシームレス化が図れる。ここが重要である、と。

吉田 そこが軸足であることは間違いないです。その上で、JR東日本は旅行窓口事業も持たれており、販売チャネルの部分でも提携します。軸としては移動のシームレス化があるわけですけれども、その先で狙うのは提携による(輸送事業の)「規模の拡大」です。

――JR東日本は協業によるメリットが大きいわけですね。

吉田 ええ。JR東海とは(新幹線路線において)激しい競争関係にありますが、JR東日本とは新幹線路線が我々の航空路線ともかぶらない。競合のデメリットは少なく、むしろ協調によるメリットが大きいと考えています。

東海道新幹線との競争

――JR東海との競争は激しく、今後もライバル関係であると。

吉田 東海道新幹線とは、料金やサービス、(空港・駅への)アクセス環境など様々な面で競争していますからね。N700系の導入など、JR東海もサービスを強化し、競争力を付けている。

 そのような環境下で、ANAの競争力を高くするためには、飛行機と鉄道という枠を超えて、JR東日本との提携でよりよいサービスを作る必要があると判断しました。

――今回の提携では旅行窓口業務の提携も大きな扱いとなっていますね。

吉田 これは過去のマイレージプログラムとも関係しますが、これまでのANAの会員制度やマーケティングはビジネス需要に強くフォーカスしてスキーム構築をしてきました。つまり、「搭乗回数」を軸に多頻度利用に重きを置く、垂直型のモデルだったのです。

 しかし今後の事業拡大を鑑みれば、搭乗回数中心のビジネス需要の獲得だけでなく、旅行・レジャー需要の獲得も幅広く行っていかなければならない。いわば、水平方向のビジネス強化が必要になっている。

 この取り組みの一環として、我々はANAマイレージクラブの会員向けに「旅達(たびだち)」という会員サービスを構築し、このサービス拡大としてJR東日本の「大人の休日倶楽部」と販売提携します。

――営業面での提携は、利用者層の裾野の拡大が狙いというわけですか。

吉田 そうです。マイレージプログラム(の連携)は、どちらかというとビジネス顧客や多頻度利用者向けという側面が強いのですが、旅行窓口業務の提携では、より幅広い利用者層を狙っていきます。

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