技術を開発し、チップで儲ける──QualcommのビジネスモデルBREW 2006 Conference(2/3 ページ)

» 2006年06月01日 01時54分 公開
[林信行,ITmedia]

知的財産権のコストを下げる取り組み

 「IPR」(知的財産権)のセッションを受け持った新規ライセンシングビジネスの副社長、マイク・ハートグス氏は、Qualcommは、携帯電話メーカーにかかる知的財産権の総コストを下げるのに貢献していると言う。同社のW-CDMAやCDMA2000に関するロイヤリティは、一切の追加料金なしで、同じライセンスの範囲で利用できる技術が増えていく。

 「Qualcommは2005年だけでも研究開発に10億ドルを費やした」。中小規模の携帯電話メーカーにとっては、これだけの規模の研究開発をするのはなかなか難しいはずだ。

 また同氏は、Qualcommはそもそもの知的財産権に関する出費そのものを下げるのにも大きく貢献しているとする。

 例えばQualcommは昨年8月に無線ブロードバンド技術開発企業のFlarionを買収した。Flarionは、Qualcommが今後取り組んでいくOFDMA技術(Orthogonal Frequency Division Multiplex Access)に関していくつか重要な知的財産権を保有している。このため、そのままではQualcommのOFDMA技術ライセンスに、Flarionへのライセンス料も加える必要があり、長期的に見てQualcommのライセンス料も高くせざるを得ない状況にあった。そこで、同社はFlarionを買収し、その知的財産権を自社のものとすることで知的財産権のコストを下げる判断をしたという。

 同社はこのFlarion以外にも、位置情報システムのSnapTrack、低消費電力ディスプレイ技術のIridgm Display、統合型マルチメディアコンテンツ配信プラットフォームのElata、無線RF CMOS技術のBerkana、ユーザーインタフェースカスタマイズ技術のTrigenix、アプリケーションソフト開発のTechSoft、90ナノメートルウェハーの技術を持つSpikeなど、さまざまな技術を持つ企業を買収している。

ロイヤリティコスト削減が競争を活性化

 このように知的財産権のトータルコストを下げることは、「携帯電話業界での市場競争を活性化させる」とハートグス氏は言う。

 以前の携帯電話のビジネスモデルでは、必須特許のみをライセンスしていた。このため携帯電話事業者はいくつもの会社とライセンス契約を結ばねばならず、コストがかかっていた。しかし、Qualcommがこうしたさまざまな知的財産権保有者とのライセンス契約を受け持つことで、携帯電話メーカーはより低いコストで、こうした技術を使うことができるようになる。

 実際、1999年ごろのAMPS(Advanced Mobile Phone Service)携帯電話市場は、ほぼMotorolaとNokiaの2社が独占していた。2000年のTDMA(Time Division Multiple Access)でも、MotorolaのシェアにEricssonが食い込んだだけで実質独占状態が続いていた。同様にGSMの携帯電話市場でもNokia、Motorola、Ericsson、Samsung、Siemensの5社体制になっている。

 これに対して2005年のCDMA2000市場を見ると、最大手のLGやSamsung、それに続くNokia、Motorola、そして京セラ、三洋電機といったメーカーのすぐ下に36もの企業が食い込んでいる。2005年のW-CDMA市場を見てもNokia、NEC、Motorola、LG、Samsung、パナソニックの下に8社が加わっている。

 ベルク氏は2000年当時の雑誌記事を引用して「GSMはロイヤリティ構造を強いる形で普及した。GSM携帯電話のロイヤリティは、今はもっと安いと思うが、2000年当時は最大29%にもなっていたと報じられている」と話した。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.