原発再稼働の判断、権限は国か地方か――マイケル・サンデル教授の「民主主義の逆襲」5000人が白熱した特別講義(5/6 ページ)

» 2012年06月21日 17時30分 公開
[上口翔子,Business Media 誠]

原発再稼働の判断権を持つべきなのは国か地方か

サンデル 原発再稼働について、誰が意思決定をすべきか、コミュニティーといってもどのレベルで、政府はどのレベルで意思決定をするべきかという議論に進んできました。国として原発の再稼働、原発の新規建設を決定した場合に、地元社会は承認をすることを要件とすべきでしょうか? この点について意見のある人いますか?

男性A ちょっと事実を申し上げましょう。地方自治体が原発再稼働に反対しているというのは、実は逆だと思うんです。再稼働したいと思っているのが地方自治体で、国が再稼働を恐れているということです。

サンデル ただ、再稼働を誰が決めるべきかということです。民主主義の原則として、地方自治体の承認、同意を条件とすべきかということです。

男性A 地方自治体といっても、どういう定義かということにも変わってくると思うんです。自治体の中にはその周辺で汚染があった自治体もあって、原発が立地していない自治体でも汚染をされた自治体はどうなるんでしょうか。

サンデル じゃあこの問題はどう考えますか。国が決めるべきなのか、それとも地方自治体がやはり同意をすべきなのか、自治体の同意も条件とすべきなのか、どなたか意見ありませんか?

男性B 前に本を読んで知ったのですが、今回の事故が起きた福島原発の電気は全部東京に送られていて、福島には全然電気を送っていなかったらしいんですよ。原発の燃料棒を冷やすためにたくさんの水が必要だから、どうしても海の近くでないと立てられなかったそうです。そして立てた原発による電力は、近くの大都市に供給しているという状態です。

 だから、その地方自治体がもしちゃんと再開していいんですよといって、そして国もそれを承諾したならいいと思います。中央政府が最初に決めるんじゃなくて、地方から先に再開させるかどうかを決めさせるべきだと思います。

サンデル 私が申したいのは、国と地方で意見が分かれていた場合にどうするのかということです。国が安全で再稼働したいとと言っていて、地方自体がそう思っていない場合にはどうしますか?

男性B その場合には再稼働をしてはならないと思います。

サンデル ならば民主主義というのは過半数、多数決で決める、つまり国のレベルで多数決で決めるだけではなく、地方自治体の意見も参考にしなくてはならないということですか?

男性B そうです。この場合にはそうだと思います。やはり自治体の権利を考えるべきでしょう。

サンデル では今の意見に反対の人いませんか? そうではないと、国がやはり日本全体を代表しているんだから国が決めていいと思う人。

ミホ 全ての人間、全ての自治体が賛成することって、やはりそんなにないと思うんですよ。そして全てを聞いていてもしかたがないとも思うんです。そうした場合、代表となる意見は絶対必要です。

 ただし、代表意見を言う時に押し付けになるんじゃなくて、どこまで説明できるかや反対する意見もちゃんと認識する必要があります。その上で中央の人が決定して、それに向かって皆が「まあ、しかたないよね」と、ある人は少し犠牲も払いながらいくべきなのかなと思います。

サンデル 最終的に地元自治体が反対をしても、その反対意見を表明をする機会があったら国が決定するべきだということですね。お名前は? ミホですね。ミホと反対意見の人で、まだ発言の機会がなかった、ミホに反論したいという人いますか?

男性C 誰が中心的な利害関係者なのかだと思います。地元の人たちは何かが起こった場合には被害を受けますが、国の助成金によって利益も受けることになる。よって地元の人たちが意思決定すべきだと思います。

サンデル 国は地方自治体に承認をしてもらうためにお金を払うべきだと思いますか?

男性C それがいい方法だとは思いませんが、地元住民が金銭の支払いを求めてそれと引き換えに原子力発電の立地あるいは再稼働を認めるのであれば、それでも構わないと思います。ただ、日本ではそれは受け入れられないと思います。

サンデル 今ではもう受け入れられないということですね?

男性C そう思います。

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