入社してしばらくは、処理的な仕事を任されることが多いでしょう。処理的な仕事は、段取りを覚えて、ミスなくきちんと能率的にこなす業務です。これは真面目さと根気さえあればこなせます。
ところが、そのうちに担当する仕事もだんだん難度が上がり、複雑さが増してきます。すると、仕事の現場や事業の世界には「正解がない」問いがたくさんあることに気が付くでしょう。ですから、ある段階からは「正解を作り出す」ことが求められるようになってきます。そうした仕事をやっていくには、自分自身が物事の評価や解釈をし、選択・判断をし、意思を持つことが不可欠です。
実はこのことが仕事の中で最も難しいことなのです。どんな情報、どんな状況に接しても、ぶれない評価や判断ができ、意思を貫ける──これがつまり「羅針盤」を持つということです(羅針盤はどんな場所に置かれても、常に針が北を指す)。
羅針盤を持つとは、言いかえると「自律的」になることです。自律の「律」とは、規範やルールといった意味です。自分の律に照らし合わせて行動を起こす、仕事を作り出すというのが、入社数年後から求められる第2のテーマです。
自らの律に付き、1つ注意点があります。自律は“我律”であってはいけないということです。自律的な判断というのは、組織や社会の中で正当に受容され、かつ、その人独自の主張やアイデアを含んでいることです。他方、我流は周囲の意見を軽視したり、意固地に主張したりする時が多く、気分によって移ろいやすいものです。自律的に振る舞うとは、俺様流にやることではありません。
ですから、他者や組織からも信頼される律・羅針盤を醸成するためには、時間も努力も経験も必要です。一番は、社内外問わず「大きな働き方・生き方」をしている人の姿に触れていくことです。こうした模範とすべき人を「ロールモデル」と言いますが、私たちがそこから学ぶべきは、彼らの具体的な行動の奥にある仕事観や哲学です。羅針盤や律をどうすべきかは、ハウツー的・マニュアル的に学べるものではなく、感化され啓発され、自分で醸成させていくしかないからです。
また同時に、仕事現場でさまざまな人間関係や意見の対立にもまれたり、経営者・上司からの理不尽な命令や、つじつまの合わない独断を経験したりする中でも、自分の羅針盤作りは鍛えられます。優れて自律的な人は、こうした多様な意見の中から「コモンセンス(良識)とは何か?」「コモングッド(共通善)とは何か?」を自分なりに見出していく人です。
自分の律・羅針盤を作るために、個人の習慣としてできることは、例えば次のようなものです。
その時のポイントとして……。
1.YESかNOか(賛同か反対か)を表明する
2.「なぜなら〜だから」と理由付けする
3.その理由付けの基底にある価値観を考える
4.自分が当事者なら、どう行動するかを考える(=単なる批評に終わらせない)
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