【TRIZ法で考えた】思わず参加したくなる婚活パーティーをプロデュースするとしたら?アイデア発想実践記(3/3 ページ)

» 2012年03月19日 12時20分 公開
[シックス・アパート 中山順司,Business Media 誠]
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反省点とメンバーのコメント

 42個のアイデアのうち、上に紹介したのは10個ほど。つまり、半分以上はボツ、もしくは広がらなかったものです。

 「ユニークだけど、そりゃムチャだ」「何か、似たようなの聞いたことあるよね」「非現実すぎるんじゃない?」といったものだったということです。とはいえ、出すアイデア全てヒットさせるのは無理というもの。ジャブをひたすら出して、一発ヒットさせ、またジャブを連打する……アイデア出しってそんなものだと思います。

 以下、メンバーのコメントです。

中山

4回目ということもあって、慣れてきた気がする。ここでいう慣れとは「適度に不真面目になる」ということ。不真面目という表現は誤解を招くかもしれないけど、かみ砕くと「自分の感覚を頼りに、直感を信じて、自由にジャブを打つ」ことができる程度に力みが抜けた感覚。あと、40という決して短くないリストも、「5分で取りあえず終えられる」と思えたことで、ゴールを近くに感じられ、気が楽だった。


鷹木

ピンとこない質問が少しあったけど、アイデアを思いつかなければ飛ばせばいいと割り切ったのがよかったかな。SCAMPERの時は質問に引きずられたので、TRIZのほうがやりやすかったかも。アイデア発表のとき、他のメンバーの意見に刺激を受けて、後付けでアイデアをブラッシュアップできたのも良かったかな。


上口

チェックを入れる最初のステップで、(アイデアを)出せそうかの判断に時間をかけ過ぎてしまった。チェックを入れたはいいが、後で本当にアイデアを書き出せるのかが心配だった。まだ真面目に取り組み過ぎているのかもしれない。


 今回学んだことは次の3つでした。

(1)1つのセッションは短くしよう

 40のリストをチェックする1セッションを5分と短くしたおかげで、メリハリが効いた検証ができました。「40問を5分」と書くと短すぎるような印象を受けるかもしれませんが、別にテスト問題を解くわけではなく、ただチェックを入れていくだけなので、やってみると意外に無理なくいけます。これより長く設定しても、(感覚ですが)出てくるアイデアの数、質にあまり影響はなかっただろうと思います。

(2)数を出せる能力は、それだけで素晴らしい

 アイデアは質が高いほどいいに決まっていますが、渾身の一振りでホームランを狙うのは、天才でもない限り無理。とにかく数を出しまくって、練って、揉んで、取捨選択して……を経ないと、これだ! と思えるアイデアにはたどり着けないです。完璧を求めすぎると「ダメだダメだ、こんなんじゃ……!」と脳内で自己否定してしまいたくなりますが、それをしないことが大切。そういう意味で、数を出せるというのは立派な才能です。

(3)後出し、後乗せを歓迎しよう

タイムアップ後に追記・修正をするのは、いわゆる学生テストだとNGですが、発想プロセスでは歓迎すべきもの。「今思いだしたんだけどさ……」「聞いてて思ったんだけどね……」と、どんどん後出し、後乗せしていきましょう。


石井さん監修コメント 「自然と生まれる『心理的惰性』を打破せよ!」

 頭の中でアイデアを作り出すことは、記憶情報の中の要素の新しい組み合わせなどや反転など、概念的な加工をたくさんする作業です。その時に「考えてみても無駄なこと」を自然と頭は省こうとします。なにせ頭は大量の情報を持ちそれを組み合わせたり逆にしたり削いでみたりというのは膨大な候補がありますので。考えてみても無駄そうなこと、を、自然と考えるのを避ける傾向をTRIZでは「心理的惰性」と言います。

 創造的に物事を考え出す高次の思考に使う脳の部位は、脳の疲れをとる部位と隣接しているため、創造的な思考をすることは疲れを取ることもあります。そういう側面もあって、ブレスト(Brainstorm)はホットにやれると、惰性や何かを残り超えてたくさんアイデアを生成できます。なので多くの人たちが使います。(逆に言えば、否定的のあらしで、疲れるようなブレストならしない方がましです。耳を貸さず1人で考える方が生産的です)。

 TRIZが面白いのは、創造性を発露させるのにブレストとは違ったアプローチを取ります。多くの創造技法では脆弱な「解決策の広大なパターン集」をTRIZは持っています。大抵の問題にはどれかが当てはまる発想の型のセットがあり、それを持ってきて、99%の確率でこの中にはまるパターンがあるので選んでごらん、というわけです。いわば、創造的努力に具体的な手段を与えてみると、人間は心理的惰性を乗り越えやすくなります。

 今回用いたのは、TRIZの「発明原理」という技術的ブレークスルーの40パターンであり、通常はモノや技術システムの工夫改善に使います。しかし、中山さんたちはそれを「婚活パーティー」という柔らかいものに適用し、そしてかなりの数のアイデアを実際に生成されました。とても興味深いと思います。

 なお、本格的なTRIZでは40のパターンを無作為に使うのではなく、問題の中に潜む2つの相反する要求を突き止めてそこから4つ前後のパターンを導出する道具(矛盾マトリックス2003)というものがあります、今回のテーマで言えば、解釈の仕方によっては「エネルギーの損失」と「検出/測定の能力」の問題になりそうです(たくさん頑張って参加したけれど実際にそれが全部成果になるわけではない、が、頑張らないと、うまく出会うべき運命の相手を見つけられない)。この場合はTRIZは次の5つが解決策になりやすい、と教えてくれます。

1:分けよ

 例えば床を7つぐらいのゾーンに分けておいて13:00〜13:30は、出身地の近い人が同一ゾーンに集まったり、14:00〜14:30は、趣味ごとにゾーンごとに分かれるなどを、運営側が工夫してもいいでしょう。

3:一部を変えよ

 イベントタイム的に男女の比率を変えてもいいでしょう。テーブルに3人で座り、男3女1、あるいはその逆、をつくり、同数の時とは違う感じで相手を知ることができるし、体験としても面白そうです。

35:温度や柔軟性を変えよ

15:環境に合わせて変えられるようにせよ

28:触らずに動かせ

 数字だけを挙げておくと、後は上記のようなものがあります(発想してみてください)。

 ここまでの追い込み方をするのは慣れないと手間に感じるので、カジュアルにブレストをするときは、本記事のように、TRIZのパターン集をチェックリストやカードにしてランダムに引いてみてください。もう一歩、深く学びたい時は、TRIZの教科書的な本をぜひ読んでみてください。開発工学に詳しい人が周囲にいれば、初歩的な本なら持っているでしょう。


 4回目の今回、なんだかんだ慣れてきたせいもあるのでしょう、メンバー全員の緊張感が取れてきた気がします。当初漂っていた「ちゃんとアイデアが生まれるのかな」という不安は薄れ、代わって「今日はどんなアイデアが出るのかな?」という前向きな雰囲気が芽吹いてきたような気がします。

 プレゼンテーションやスピーチと同じく、トレーニングを繰り返すことで習得できるスキルなんだと思います。

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