マイケル・サンデル教授の特別講義「Justice」に出席してきたこれからの「正義」の話をしよう(3/7 ページ)

» 2010年09月16日 13時00分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

扱うモノの“質”が違う

サンデル 「ヨウスケは『もっとお金を儲ければいいではないか』という意見ですね。キミコはどう思いますか?」

キミコ 「選択の自由という観点でいえば、これは公正ではないと私は思います。同じダフ屋といっても、コンサートやワールドシリーズのチケットと、医者に診察してもらう権利とでは、質が違います」

サンデル 「キミコは『質が違う』と言いました。新しい要素が入ってきましたね。今ここで取引されている財の重要性です」

キミコ 「命にかかわることは、全体的にすべての人が平等であるべきではないでしょうか。ダフ屋がチケットを売ることも良いこととは思わないですが、娯楽と医療とでは質が違うと思うんです」

 サンデル教授が「キミコ、つまりこの講義のチケットは娯楽と同じと言うことだね」と言うと、会場にどっと笑いが広がった。そのままサンデル教授は話を進めていく。

サンデル 「ヨウスケの意見、これは3つの哲学のうち、2つめに当たります。選択の自由、公平性ということです。キミコの意見も公平性についてですからやはり2つ目の公平性に当たりますが、解釈が違います。改めて考えてみましょう。『選択の自由とはなにか?』後段部分でキミコは違うことを言いました。人間の命に関わる根本的なところだから、娯楽とは分けて考えなくてはならない。扱われる財が何なのか、その性格を考えるべきだ、そう言いました」

 次にサンデル教授が挙げた例もやはり医療について、しかし今度は中国ではなく、米国の医者についての話題だ。米国でもやはり、医者に面会し、診断してもらうのにはとても時間がかかる。時には数週間前から予約を取らなくてはならないという。そこで米国では、「コンシェルジェ制度」という方式を採る医者が現れた。コンシェルジェドクターは、限られた人数しか見ない代わりに高い年会費を取る。治療にかかるお金とは別に毎年5000ドルの年会費を払ってくれる人に対しては、すぐに診察するし、携帯の番号も教えてあげる……という仕組みだという。

 「これは北京の問題とは違いますか?」と問いかけ、再びサンデル教授は学生に手を挙げさせる。すると、中国の病院の例のときよりも、「(コンシェルジェ制度は)よいことだ」とする人が多かった。

トモエ 「トモエです。米国には病院の選択肢がたくさんある。コンシェルジェドクターを選べない人でも、ほかの普通のドクターにならかかれる。人それぞれに選択ができるのだからいいと思います」

 もう1人指名した学生も、「『見てもらえる』ということに関しては平等な立場だからよい。5000ドルを払えない人も、時間をかければ見てもらうことができる」という意見だった。

医師はもうけてはいけない職業なのか

 サンデル教授は、コンシェルジェ制度に反対とする意見を募る。ある女性はこう答えた。「中国と米国は豊かさが違うように思うかもしれませんが、格差の大きさでいけば似ています。まあ、日本も似てきていますが……。つまり、米国と中国とで大きな違いはないと考えます。医者はライセンスが必要なもの。命を扱う仕事は、公的なサービスを提供すべきです。医師や病院が儲けすぎてはいけないのではないでしょうか」

サンデル 「報酬を与えるのはいいことだが、医師は過大な報酬を受けるべきではないということですね。反対意見の人はいますか?」

ヒロシ 「ヒロシといいます。米国と中国の例は少し違うと思います。中国の場合と違い、米国では外に並んでいる人たちはいない。実際に並んでいる人たちが見えるのと、コンシェルジェドクターとは少し違うと思うのです」

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