モンスターペイシェントにはなりたくない現役医師がズバリ回答(2/2 ページ)

» 2009年06月01日 15時00分 公開
[仁科桜子(企画:ソフトバンククリエイティブ),Business Media 誠]
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待ち時間クレームに見る「モンペ類型」

 例えば、先ほど例を挙げた「待ち時間」に対するクレーム。最近では、なるべく患者さんをお待たせしないように外来診療が予約制になっているところが増えてきています。例えば「10:00〜10:30」という枠に予約を取ったとします。医療者側としては、この時間に3人の予約を入れていたとすると、1人あたりおよそ10分で診察する予定というわけです。

 しかし、実際にはすぐに終わってしまう人もいれば、検査なども必要で、うんと時間がかかってしまう場合もあります。そうすると、どんどん時間が押してしまって、「予約の時間にちゃんと来たのに待たされた」なんてこともありうるわけです。

 それに、この予約制度の理論だと10時から患者さんが10分おきに規則正しく来れば待たないことになりますが、実際は10時に3人いっぺんに来ることだってあるわけです。そうなると、誰かは必ず待たされてしまう。しかし、患者側としては、「10時からって書いてあるから10時に来たのに、なんで待つんだよ!」という気持ちになるわけです。「ラーメン店に同時に入店して注文したのに、なんで隣のあいつだけが先に出るんだー、コラ!」的なお怒りですな。

 しかも、ほんの数分待たされるだけならまだしも、ひどい時には1時間過ぎてもまだ呼ばれもしなかったりして、「これじゃ予約の意味がないじゃないか!!」と叫んでいる声が診察室の中まで聞こえてくることも日常茶飯事。はい、おっしゃる通りです。まあ、このレベルだと患者さんの意見はごもっともという感じ。

 さらにパワーアップして個性的すぎる場合には「駐車場代が高くなっちゃうから、なんとか私だけ順番を飛び越して早くみてちょうだい」という強引なおばさまとか。そしてさらにパワー全開になると、「こんなに待たせやがって、医者を訴えてやる!」と叫びだしたり、ひどい場合には医療従事者に暴力を振るったりすることも。ここまでいくとやはりモンスターと呼びたくなりますよね。お願いだから、顔だけは殴らないで〜。

医者と信頼関係を築けたら――薬がもっと効くかも!?

 で、待ち時間が長いのは確かに問題なんだけど、とはいえ診察室の中はドクターもナースもてんてこまい。決して中でくつろいで午後の紅茶とかを飲んでいるわけではありません。ただ、大きい病院だと特に、待ち時間が長くなってしまう傾向にあります。飛び込みの急患なんかが入ると、普通の外来診療がストップしてしまうこともあるし。

 こちらとしては、待ち時間の問題だけに限らず、患者さんと接する上で常にお互いの状況を分かりあえるような努力をするよう心がけています。患者さんはただでさえ具合が悪くて病院に来ているのに、さらにたくさん待たされたり不快なことがあれば、そりゃあ怒りたくもなるのも当然です。それを医者もよく理解した上で、「お待たせしてごめんなさい」という気持ちを伝えるようにしています。もちろん、待たせないようにするのが一番だけど、実際はなかなか難しい。

 医者と患者に限らず、何事もすべての基本は人と人の関係なんですよね。信頼している医者がやった治療ならなんとなく効いた気もするし、イヤな医者から出された薬ならなんか疑ってかかってしまう。だから、お互いに信頼関係を築くことが、双方にとってプラスになるのだと思います。そのためにはまず医者が努力しなくてはいけないんだけど、患者さんも不満や疑問をためこまず、医者にそのまま話してみることが大切ですよね。もしそれでその医者との関係が悪くなるようなら、場合によっては病院や医者を変えてみたり、他の人の意見を聞くことも参考になったりします。

 医者と患者の間に良好な関係があれば、患者さんがモンスターになるなんてことはまずありません。ただ、関係が築かれる前にモンスターに変身されてしまうと防ぎようがないですけど……。一方で、モンスタードクターやモンスターナースだって存在するはずでしょう。もし実際に遭遇したら、可能な状況であればそんなドクターやナースからはまず逃げることをオススメします。

 医者は患者さんから逃げることは難しいけど、うまく分かり合えるように頑張るしかないのかな――と考えつつ、めげてしまうこともしばしばです。人間関係が一番重要で、かつ難しいというのは、どの世界においても同じなんでしょうね。私もモンスタードクターと呼ばれないようにがんばりまーす。あと、後輩の医者たちからは「モンスターお局」と呼ばれないようにしたいもんですわ。

本日の処方せん

  • モンスターペイシェントとは「医療機関や医療従事者などに対し、理不尽な要求やクレームをする患者」のこと
  • 医者と信頼関係を築けるようコミュニケーションをはかること。無理ならほかの医者や病院を探すことも視野に
  • 信頼できる医者が処方した薬は普段より効くかも!?

仁科桜子(ドクトル・ピノコ)プロフィール

 女医。医大生時代には体育会に属しつつ、某社キャンペーンガールや大手塾講師など数々のバイトをこなす日々を過ごす。現在は、酒と体力だけには自信アリの外科系ドクターとして病院勤務。

ドクトル・ピノコ名義で「週刊ビジスタニュース」などにコラムを執筆している。2009年1月、仁科桜子(にしな・さくらこ)名義で『病院はもうご臨終です』(ソフトバンク新書)を発売した。


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