ビジネスにつながる福利厚生、企業内「大学」――博報堂「働きやすい」を形に イマドキの福利厚生(2/2 ページ)

» 2008年12月01日 20時27分 公開
[豊島美幸,ITmedia]
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「人がすべて」だから大学を開校

 社内セミナーだけではなく、博報堂大学ではさまざまな人材育成プログラムを用意している。2007年度で述べ約7700人が受講したという博報堂大学とは一体どういう組織なのだろう。

 人事制度ともいえるし福利厚生ともいえそうだが、どちらかといえば人事制度に近い「人材開発施策」だという。広告代理業では、弁護士や銀行員などのように公の取得免許による客観的な人材評価は一切ない。「人がすべて」なのだ。だから人を資産ととらえ、よりいい「人財」を育てるため、手厚い人材開発施策として博報堂大学を開校した。

 大学は大きく2段階に分かれている。一般教養に当たるのが入社8年目までで、専攻に当たるのが入社9年目以降だ。専門研究に移る期間はあくまで目安。3年目以降の社員なら“飛び級”して専攻に移ることも可能だ。大学といっても卒業単位はないから、中退も卒業もない。社員は学びたい時にいつでも自主的に学べ、新しい挑戦ができる。

大学でのディスカッションの様子

 とはいえ入社8年目まではやや強制的。一定水準の「人財」になるためのこの基礎課程「構想BASCS」では、主に座学による研修が必須だ。9年目以降は、社員はよりプロフェッショナルな人材を目指し、各自が自発的に研究を進める。こうした研究活動の場は「構想サロン」と「構想ラボ」という。構想サロンでの研究テーマの中から、より実践的なテーマを選び、派生ビジネスまで昇華させているのが構想ラボだ。

 構想サロンには、冒頭で述べた社内セミナーやゼミがある。ゼミでは、「人口減少問題」や「大震災時に必要なデザイン力」など、日常業務では触れないようなさまざまな問題提起とその解決に向けた研究活動を行う。部署の横断型の研究も多く、研究テーマによっては産学協同で行う場合もあるという。

「物の見方を変えながら」進化する構想ラボ、こどもごころ製作所

 もっとも実践的な研究活動を行う構想ラボは現在、1つだけ。「こどもごころ製作所」である。このラボは「大人が無意識に従ってしまっているルールや恥を取っ払うための心持ち」=「こどもごころ」を引き出すきっかけ作りを、一般向けのイベント企画として行っている。

 こどもごころ製作所の活動は、単なる企業内研究の枠を越えて、一事業として回り始めている。人事に特化した博報堂大学という福利厚生。そこから自然発生的にビジネスが生まれた第1号といえるだろう。

 その活動はユニークそのもの。例えば目隠しをしたままフルコース料理を味わってもらう「クラヤミ食堂」は、チケット争奪戦が繰り広げられる人気企画だ。Biz.IDでも以前、リポートした。

(左)2008年夏のクラヤミ食堂では、夏休みの絵日記風のシナリオをたくみに読み上げ、参加者に深い郷愁の世界を呼び起こした。(右)目隠ししながら参加者が書いた感想

 2007年に始まったこの企画は、一般客を対象に東京のみで開催してきたが、10回近く開催した2008年夏以降、立て続けにある変化が起こる。引き合いがあったのだ。まず大阪のビジネスホテル、スイスホテル南海大阪から。さらに京都の学習教材出版社である新学社からも声がかかった。「噂を聞きつけて声をかけてきてくれた」と話す軽部拓(かるべ・ひろむ)所長の声も明るい。

 特に新学社からのリクエストは、イベント企画ではなく、あくまで「社員研修として」だった。リポートでも伝えているように、目隠しの食事を体験することで参加者同士の距離を縮めたり、自分自身を再発見できる効果があるようだ。そこに目を付けた企業からのリクエストとなった。


 さて、冒頭で、構想サロンでのセミナーの感想を「物の見方が変わりました」と話したある社員とは、実は軽部さんである。

 ある時は最後までメニューを明かさなかったり、ある時は食事中の会話を禁止したりと、参加者の反応を見ながら、毎回少しずつアレンジを変えて改良を重ねてきた。リクエストにより開催した大阪と京都でのクラヤミ食堂も、東京同様成功したという。

 以前から「(忘れていた)こどもごころを呼び起こして、なんらかの形で世の中を変えていきたい」「企業の研修にも向いていると思う」と、軽部さんが話していた。地道に種をまき、育てた企画が活動2年目にして結実した。これらは「物の見方が変わった」からこそ実ったのかもしれない。

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