モチベーションには大きく、外発的なものと内発的なものの2種類があります。外発的なモチベーションの典型的なものは、お金、休み、ポスト(地位)です。
例えばお金だったら、「半年間がんばってプロジェクトを成功させれば昇給する」「このプロジェクトの反響がよければインセンティブをもらえる」といったものです。休暇で大好きな南の島に行くとなれば、その2、3カ月前はモチベーションが上がって、仕事に対してやる気が出る場合もあります。
外資系企業に勤めるある人は、「絶対、40代でセミリタイヤする」というのがモチベーションになっています。
いわゆる休みではありませんが、生涯の休みを繰り上げたいという意味でモチベーションになっているのです。逆に、旅行から帰ってくると、目指す休みがないのでモチベーションは下がります。このように、モチベーションには短期的ものも、もちろんあります。しかし、1日、2日でなくなるものではありません。
ポスト(地位)もモチベーションになります。
「ここで2年間がんばって業績を上げれば課長になれる」ということがモチベーションになることもあります。ところが、確かに一昔前だったら、上のポストに就くのは憧れでしたが、今は「マネージャーになったところで、仕事がきつくなるだけで給料はそんなに変わらない。責任だけが重くなる」というところもあって、ポストがモチベーションにならない場合もあります。景気がいいわけでもないので、バブルのころのような大盤振る舞いもできない。
休みに関しても、競合他社が多く、世界的に競争が激しい中、そうそう休みを取っていられません。だから昔に比べて、外発的モチベーションではなかなかやる気がでない時代になっています。
内発的モチベーションは、前述の通り、「価値観」や「ビジョン」です。
「自分は何のためにこの仕事をするのか」「日々の仕事の中で、何を大事にしていきたいのか」を考えることで、価値観やビジョンが導き出され、モチベーションが上がります。例えば、「とにかくお客さんの笑顔が見たい」という価値観を持った人は、今日は5人、明日は7人、明後日は12人と、毎日見るお客さんの笑顔が増えるほどモチベーションは上がります。
笑顔が少なかったら、単純にモチベーションが下がることもあります。一方、見る笑顔を増やそうと思ってモチベーションが上がることもあります。人によっては、クリエイティブな仕事という価値観を持っているかもしれませんし、ある人は達成感かもしれません。チームワークを発揮することで、モチベーションが上がるという場合もあります。「あの事業所は雰囲気がいいし、業績もいい」というのは、事業所の誰かがチームワークやつながりをモチベーションの1つとして掲げているに違いありません。
「3年後に上場する」というようなビジョンを、社員全員が一致団結して持っていると、モチベーションが上がってがんばれます。ところが、そのビジョンが実現した時に、急にモチベーションが下がってしまいます。「すごくがんばって上場して、上場益もいくらかもらって、しばらくはうれしかったけれど、さて、次はどうしよう」みたいになった時に、モチベーションが下がるのです。
そのため経営者は、社員を引きつける魅力的な目標を次々に提示することで、モチベーションを上げていかなくてはならない。上場した後は海外進出、海外進出の後は海外店舗を増やす、というようにです。ところが、社長自身はそれでモチベーションが上がっても、社員がそれについていけない場合もあります。社員と経営者が価値観やビジョンを共有して、全体的にモチベーションをアップさせることに関しては、「共有ゾーンを広げる」の記事を参照してください。
いずれにせよ、私としては今は外発的なモチベーションを求めない方がいいと思います。
もちろん、自分が生活していくだけの収入と必要な余暇、納得できるポストは最低限必要です。でも、「とにかくお金さえよければ」ということだと、ほかのこと、特に内発的なモチベーションを犠牲にしてしまい、結果的にモチベーションが下がってしまうことになりかねません。あまり外発的なものにこだわりすぎないようにした方がいいと思います。
例えば転職する場合、給料や休みに関しては、上を望むよりは「これ以上は下げない」という基準を押さえておく方がいいでしょう。そして、どういう価値観やビジョンが満たされたら、自分がやりがいを感じるかということを、まずしっかりと引き出します。そして、それが満たされる会社かどうかを基準に選ぶ方が、モチベーションが高くなります。
何よりも重視してもらいたいのは、内発的なモチベーションです。そして残念ながら自分のモチベーションを100%満たしてくれる会社は、この世に存在しないのです。ですから、いかに会社や上司と共有ゾーンを見つけていくかが大切になります。
次回はテンションのオン/オフをうまく使い分ける方法を解説します。
ピークパフォーマンス 代表取締役
平本あきお(ひらもと あきお)
1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は、『すぐやる! すぐやめる!技術 ― 「先延ばし」と「プチ挫折」を100%撃退するメンタルトレーニング』。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。
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