米IBMが2004年に正式発表した中国パソコン大手、レノボ・グループ(聯想集団)へのPC事業の全面売却は当時、大きな話題を呼ぶとともに、次のことを関係者に強く印象付けた。それは、「コモディティ化により、PCはもはや利幅の大きな製品ではなくなった」ということである。黎明期からのプレーヤーがPC事業を手放すことを惜しむ声は少なくなかった。ただし、売却を妥当とする見方が支配的であったのも、収益性の低さが理解されたからでもあった。
あれから10年。「利益を生みにくい」との観測を尻目に、レノボ・グループはPC事業で快走を続けている。幾度のM&Aを原動力に売り上げを伸ばし、PCの出荷台数ではグローバルでトップの座を獲得。2015年3月期の決算では、米モトローラの携帯端末事業と米IBMのx86サーバ事業の買収に伴う費用がかさみ、純利益は前期比1%増にとどまったが、その額は8億2900万ドルに上る。
「一昔前は製品の標準化によるコストダウンを推し進めることが、PCの売り上げを伸ばす一番の近道だととらえられていた。だが、経済成長を背景にした新興国のニーズの多様化により、米欧向けの画一的な製品提供モデルには限界が見え始めているのも確かだ。今後のグローバル競争に勝ち抜くためには、地域の実情に合った製品投入が不可欠。そこでのレノボの強みこそ、“多様性”を尊重する企業文化にほかならないのだ」
レノボ・グループの成長の背景をこう強調するのは、レノボ・ジャパンの代表取締役社長とNECパーソナルコンピュータの代表取締役執行役員社長を兼務する留目真伸氏である。
留目氏によると、地域ごとに適した製品投入には、各地域の代表的なプレーヤーによる、互いの良さを生かした協働が肝要なのだという。レノボ・グループの矢継ぎ早の買収劇も、そのための体制の早期確立という狙いがある。国内に目を転じれば、2011年にNECのPC事業を統合。これはレノボにとって、大きな転換点ともいえる。
「1992年にThinkPadが誕生して以来、日本IBMは大和事業所(現在はみなとみらいに移転)で世界に通用する製品開発に取り組んできた。その上で、NECのPC事業を統合したことで、世界でも品質に厳しい日本の消費者を満足させる製品開発力が新たに加わった。グローバルでの開発力の底上げに向け、このインパクトは決して小さくない」(留目氏)
ただし、M&Aによるシナジー効果の創出は決して一筋縄ではいかない。例えば、近年の国内家電メーカー間の買収において、一方は完全に飲み込まれ、定評があった電池事業の価値が毀損されたと見る向きも多い。事業をいかに統合するかは、グローバルな企業経営における命題といえよう。
では、M&Aを繰り返してきたレノボは、いかにこの難問に取り組んできたのか。基本となるアプローチは、前述した多様性の維持だ。その一端は日本市場でNECパーソナルコンピュータ(NEC PC)の「LAVIE」ブランドが維持されていることからもうかがい知ることができる。昨年買収したモトローラ・モビリティの「Moto X」ブランドなども同様だ。
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