北近畿に異変アリ! 異業種参入のバス会社が鉄道事業を託された理由杉山淳一の時事日想(1/4 ページ)

» 2015年03月20日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 赤字続きのローカル鉄道は地方自治体にとって悩みのタネだ。丸抱えすれば税金を食い尽くし、第3セクターという枠組みを作っても補助金を投入し続けなくては維持できない。しかし地域に鉄道を必要とする人がいる。だから、ローカル線の維持は公共交通としての責任感によって維持されている。本当は民間企業に移管して手放したい。もちろん、儲からないと分かって火中の栗を拾う企業はない。

 ところが、第3セクター鉄道として赤字日本一の「北近畿タンゴ鉄道」が、鉄道の運行会社を公募したところ、ウィラーアライアンスが名乗りを上げた。ウィラーアライアンスは高速路線バスの大手「ウィラーエクスプレス」で知られるグループだ。同グループは新たに鉄道事業会社「ウィラートレインズ」を設立し、「京都丹後鉄道」のブランドで北近畿タンゴ鉄道の運行部門を引き継ぐ。

 今までは、北近畿タンゴ鉄道は線路施設を保有し、列車も運行する鉄道会社だった。鉄道事業法による「第1種鉄道事業」である。しかし、今後はウィラートレインズが列車の運行を行う「第2種鉄道事業」となり、北近畿タンゴ鉄道は線路施設を保有する「第3種鉄道事業者」となる。

 北近畿タンゴ鉄道はなぜ、異業種参入となる高速路線バス会社に列車の運行事業を託したか。かたや、ウィラーアライアンスはなぜ、火中の栗を拾ったか。結論を急いではいけないけれど、この枠組みが成功すれば、ほかの地方交通の特効薬になるかもしれない。今回は北近畿タンゴ鉄道側の事情を考察する。

北近畿タンゴ鉄道名物の特急車両KTR001形。老朽化のため定期運用を外れた 北近畿タンゴ鉄道名物の特急車両KTR001形。老朽化のため定期運用を外れた

北近畿タンゴ鉄道の悩み

 北近畿タンゴ鉄道と言われても、近畿圏に住む人以外はどこにあるか分からないという人もいるだろう。簡単に言うと、日本三景「天橋立」の近くを通る鉄道である。せっかく全国的な知名度のある観光地を持ちながら、鉄道路線とリンクしない。これだけでもかなり損をしていると思う。

 北近畿タンゴ鉄道は、日本海の若狭湾に面した京都府宮津市を中心とし、東西方向の「宮津線」と、南方面の「宮福線」を運営する第3セクターだ。宮津線は兵庫県豊岡市と、かつて鎮守府があり、国際港もある京都府舞鶴市を結ぶ。豊岡のさらに西に城崎温泉があり、鎮守府の軍人たちの療養所になっていた。

北近畿タンゴ鉄道路線図(京都府作成 出典:国土交通省) 北近畿タンゴ鉄道路線図(京都府作成 出典:国土交通省)

 宮津線は地域の足、天橋立観光だけではなく、軍事面でも重要な路線だった。一方、宮福線は宮津市から南下してJR山陰本線、福知山線の福知山駅を結ぶ。若狭湾エリアと近畿中心部を直結する路線だ。

 国鉄の赤字問題が深刻になったとき、とっくに軍事面での役目を終えた宮津線は廃止対象路線となり、宮福線は建設工事中止となった。しかし、若狭湾エリアにとって宮福線は悲願であったから、第3セクター方式の転換を決定し工事を再開。宮福鉄道として1988年に開業した。その後、大赤字の宮津線も鉄道として存続し、宮福鉄道が受け皿となって、北近畿タンゴ鉄道に改名した。

 赤字であっても利する面が多い宮福線だけではなく、改善の見込みの薄い宮津線まで引き受けたため、北近畿タンゴ鉄道は赤字が前提の発足だった。それにしても限度がある。2009年度、北近畿タンゴ鉄道の経常損失は年間7億円を超えた。理由は利用者数の減少と赤字削減のための減便、その減便のおかげでさらに利用客が減るという「負の循環」であった。300万人だった利用者総数は200万人まで落ち込んだ。

 沿線人口は減少傾向で、利用者の内訳は通学20%、通勤30%、観光と一般利用が50%である。定期利用客が減って、観光客が頼み。しかし、鉄道の存在が天橋立と結び付かない。それだけが理由ではないとしても、売り上げが減る一方で、老朽化する車両や施設の補修費用は膨れ上がっていく。

 第3セクター方式の経営体質も問題が多かったという。第3セクターは民間と自治体が協調して運営する企業だ。民間企業の経営参加は「地域の鉄道を地域の企業が支える」「民間企業のノウハウを導入する」という目的があるけれど、たいていの場合は自治体が主導で、民間は資本参加にとどまる。複数の自治体や企業が参加した結果、「船頭多くして船山に登る」結果となる。「困ったら自治体が何とかしてくれる」と経営陣の責任感が乏しく、財務体質は行政依存。現場は国鉄OB任せだった。その結果、課題はすべて先送り、赤字は膨らむ一方になってしまった。

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