女優・井川遥さんの美しさに日本中のお父さんたちをウットリさせ、居酒屋で「ハイボールと唐揚げ」を注文させるというスキームが40年以上も昔に既に確立していたというわけだが、どんな話にも表と裏がある。
この「水割り」プロモーションも然りで、実はこれを普及させたのは市場拡大だけが狙いではないと主張される方たちもいる。この時代に日経記者としてご活躍されていたAさんもそんなひとりだ。数年前に「書けなかったネタ」について話をうかがっていると、Aさんは遠い目をしてこんな話を披露してくれた。
「昔のウイスキーってのはね、芋焼酎に色をつけただけで臭くてとても飲めたもんじゃなかった。だからそれをごまかすうように水割りとかお湯割りという飲み方を普及させた。メーカーも成分表出せと言っても絶対に出さなかった。それを取材して記事にしようとしたんだけど上から止められてね。まあ一番の広告主だからしょうがないよね」
なにかの妄想かトンデモ話のように思うかもしれないが、実は当時はこういう話がわりと出回っていた。サントリーの「トリス」を「色つきアルコール」などと猛烈に批判した『ほんものの酒を!』(三一書房)なんて本が出て、週刊誌や新聞も面白がって取り上げた。
やがて事態は、つい最近あった「伊勢エビ」やら「100%フレッシュジュース」のような食品偽装表示問題を彷彿(ほうふつ)とさせるような、「原酒が入っていないウイスキー」問題として、国会の衆議院大蔵委員会やら物価問題等に関する特別委員会でやいやいのと議論されるような事態にまで発展したのである。そういう時代背景を鑑みると、先に大先輩の“思い出”も単なる与太話だと笑い飛ばすことはできない。
ただ、不思議なもので、こういう裏話を聞いてウイスキーが嫌いになったのかといえばそんなことはなく、むしろ以前よりもウイスキーが好きになった。
清濁併せ呑む感じがするからだ。
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