「言論」を力で抑え込めば「ヘイト」が生まれる窪田順生の時事日想(1/4 ページ)

» 2014年11月05日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

窪田順生氏のプロフィール:

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。


 民主、維新、共産、社民という野党と公明党からなる超党派の議連が今国会中に、「ヘイトスピーチ規制法(人種差別撤廃基本法案:仮称)」なるものを提出しようとしているらしい。

 へイトスピーチ(憎悪表現)を違法行為として位置づけて規制をすることで、「社会的に差別を許さない空気をつくる」そうだが、個人的には「規制」などしてもそんな“空気”が生まれるとは到底思えない。もちろん、人種、民族、性などの「マイノリティ」に対する暴力――例えば、白人至上主義が生み出したアフリカ系の人々へのヘイトクライムなどは取り締まるべきものだとは思うが、いわゆる保守系市民団体のみなさんが街頭でワーワーと騒いでいることまで法の「網」をかける必要が本当にあるのかは疑わしい。

 特定の組織や個人を攻撃したら名誉毀損や威力業務妨害、安全を脅かすなような発言をしたら脅迫罪を適用すればいい。むしろ、わざわざ国が「人種差別」という争点をつくってしまうことでかえって保守系市民団体が過激化する恐れもある。

 なぜかというと、そもそも彼らの運動がここまで広がったのは、力で抑え込まれたことに対する「怒り」があるからだ。

 2011年12月、「在特会」の抗議活動を取材したことがある(関連記事)。「従軍慰安婦」だったという韓国人女性が来日して日本政府に謝罪と賠償を求めるということで、彼女を支援する団体も日本中から集結して、外務省を取り囲むという「人間の鎖」なる抗議活動を行ったのだが、そのアクションに対する抗議を行う在特会に密着したのである。その時に印象に残ったのは、「これじゃあ火に油だよな」という当局側の対応だった。

 「従軍慰安婦」だった女性と彼女を支援する団体は外務省前にズラリと並び、テレビカメラに取り囲まれ、「日本の性奴隷にされた」なんて感じで言いたい放題なのに対して、保守系市民団体は警官隊から車道を挟んだ場所で待機を命じられて近寄らせてもらえない。完全に蚊帳の外なのだ。

 両者の直接対決を避けようということなのだが、この不平等感漂う対応が裏目に出る。

 あちらばかりを優遇するなということで在特会メンバーが、警備が手薄な地下鉄構内を通って道の反対側に“上陸”を果たし、それを制止しようとする警官隊と地上出口付近で衝突。あわや将棋倒しでケガ人が出るかというほどの大混乱となったのだ。

「従軍慰安婦」だったという老婆が外務省へ抗議に訪れ、多くのマスコミがかけつけた(写真は2011年12月撮影)
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