ドイツは景気刺激策に取り組むべきだ――EUが日本型デフレに突入しないために藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2014年10月30日 08時20分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]
IMFの「World Economic Outlook」(世界経済見通し)では、欧州の経済状態について「低インフレがデフレにシフトするリスクがある」としている

 世界経済の足を引っ張っているのは欧州だということが、かなりはっきりしてきた。IMF(国際通貨基金)の総会でも、世界経済の見通しが下方修正されたが、その大きな理由は欧州経済が不振であることだ。とりわけこれまでEUのけん引役であったドイツが、どうも2四半期連続でマイナス成長になりそうだというショッキングなニュースまで流れていた。

 さらにECB(欧州中欧銀行)が行っていたユーロ圏の大手銀行に対するストレステスト(健全性審査)の結果、なんと26行も不合格になったのだという。

銀行が倒産したらどうなる?

 もともと2008年以前にはバブルがあったわけで、それを基本的には処理せずに来たのだから、ストレステストに「落第」する銀行が少なからずあることは予想できた。その意味ではそれほど驚くことでもあるまい。

 しかしそうとばかりも言っていられない。銀行に資本が足りないということになれば、とにかく資本を増強することが必要である。それなしには、十分な貸出をすることもできず、EUの企業にとっても苦しい話になる。

 もちろん銀行を建て直すには犠牲も伴う。もし銀行が企業への貸出債権を不良債権として分類し、支援を打ち切れば、リーマンショック後懸命に生き残りを図ってきた企業のなかには倒産を余儀なくされるところも出てくるだろう。しかし銀行にしてみれば、不良債権を切らずに再建することは不可能なのである。

 不良債権を処理する一方で、必要なのは新しい資本の導入だ。新しく資金を導入して銀行の体質を強化しなければ、新しい貸出先を探すことができない。

1990年代の日本がたどった道

EUは今、日本型デフレに落ち込むかどうかの瀬戸際にある

 日本の銀行は1990年にバブルがはじけて以来、当初は「やがて回復」と期待していた。経済が落ち着いてからのほうが不良債権なども処理しやすい。たとえば緩やかなインフレ傾向にあるとき、不良債権で空いた穴はインフレの進行に伴って軽くなるのである。

 しかし、EUはいま日本型デフレに落ちこむかどうかの瀬戸際にある。1990年代の日本もそうだったが、物価上昇率は徐々に低下し、もうゼロまでのマージンはあまり残されていない。こうなったら財政的に余裕があるところは、それこそケインズが指摘していたように、道路に穴を掘って、また埋め戻しても経済効果が生まれる。

 今年のIMF総会の時に発表されたリポートで、政府による公共投資が「見返りのある投資」として支持されたのも偶然ではあるまい。もちろん日本のように新設の道路工事は必要ないような国もある。対してドイツは財政は健全、国際収支なども強い。それなのにEU全体が沈みつつあるようなときでも、ショイブレ財務相は健全財政の看板を降ろすことはしない。

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