データが価値を持つ時代に、“タダ”のサービスなど存在しない「日常」の裏に潜むビッグデータ(1)(1/2 ページ)

» 2014年07月14日 08時00分 公開
[野々下裕子,Business Media 誠]
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 2017年7月、ある休日のこと――。

 藤井由紀子、28歳。どこにでもいそうな旅行好きのOLだ。彼女が半年前にコートを買ったお店の前を通ると、スマホに“サマージャケットの新作が今なら30%オフ”という情報が写真付きでプッシュ通知されてきた。

 「30%オフなら見てみようかな……」と店内に入ると、初めて会う新人店員が、自分にピッタリのサイズを試着用に出してくれて、合わせてオススメの旅行用バッグも見せてくれた。レジを見ると、週末に行く旅行でツアーを予約した航空会社とタイアップしているらしく、今なら購入時にもらえるマイルが2倍になるし、1万円以上買えば、旅先のレストランで使えるクーポンもメールでもらえるという。

 結局、オススメされたジャケットとカバンを両方とも買ってしまった。手持ちの現金がなかったので、いつも使っている決済サービスで支払い、商品も登録している住所に送ってもらうことにした。


 ビッグデータの活用が当たり前になるであろう、少し先の未来。このように、初めて入る店でも常連客と同じような、便利で気持ちのいいサービスを受けられることが当たり前の世の中になるかもしれない。

 ビッグデータという言葉がビジネスで広く使われるようになったが、それでも「システム屋さんや、データベース、マーケティングとかデータを扱う業種の人が中心でしょ、自分には直接関係ないよね」と考える人も多いと思う。しかし、実は私たちの日常生活の中でこそビッグデータは身近なものになりつつある。今後は切っても切れない関係になるだろう。

ニッチなモノを売るためにビッグデータが使われる

 ビッグデータとはその名の通り、大量に集められたデータを指す言葉だが、蓄積、分析できるデータの量や種類が、今までと比べられないほど広がっていることから注目が集まっている。さらに、データが“ビッグ”になった結果、分析結果を応用できる範囲が格段に広がったことも大きなトピックだ。

 例えばメーカーでは、大量にモノを売るマスマーケティングに生かそうと、以前から顧客情報をはじめとした大量のデータを集めていたが、次第にマス向けのアプローチではモノが売れなくなり、データを活用するアイデアもコストも無いまま、データは死蔵されていた。

 しかし、データベース技術の進化や、便利な分析ツールの登場で状況は変わった。データの活用法が見えたことで、死蔵されていたデータは“宝の山”になったのだ。

photo アップルのコンシェルジュサービス「Siri」

 ブラウザの検索結果やサイト訪問履歴、オンラインでの購買行動、そして、スマホの位置情報やアプリからのチェックイン、SNSへの書き込みなど、Web上で集められる情報は多岐にわたる。こうした情報を組み合わせることで、マーケティングはもとより、商品開発や顧客とのエンゲージメント強化など、あらゆる方向へと応用できる可能性が出てきている。冒頭で挙げた日常のワンシーンもその一例だ。

 このように、ビッグデータをユーザーサービスに応用する流れは、身近なところでも始まっている。コンシェルジュサービスのNTTドコモの「iコンシェル」や、アップルの「Siri」などが良い例だ。

 今のところはまだキーボードの代わりに音声で入力できる便利な機能、というぐらいのものだが、使い込むことでユーザーのデータを蓄積し、スマホの利用履歴や情報を組み合わせ、より適切な情報や機能を提案できる――将来的には、ユーザーの生活をトータルにアシスタントするエージェントへと成長することを目指している。

 通信キャリアは、こうしたコンシェルジュサービスを無料でユーザーに提供しているかのように見えるが、実際はきちんと対価は支払われているのだ。あなたの“データ”によって。

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