大井川鐵道に『きかんしゃトーマス』がやってきた本当の理由杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)

» 2014年07月04日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

集客低下に悩む大井川鐵道の事情

 一方で、大井川鐵道はSL列車の新展開を模索していた。大井川鐵道はSL列車の観光収入で普通列車の赤字を埋めるという経営体質だった。しかし近年、SL列車の集客が鈍っていた。その理由は二つ。JR東日本のSL復活と観光バスの制度変更だ。

 JR東日本がSLを復活させ、高崎を拠点に投入し始めた。しかも、子どもに人気の新幹線とセットでPRしている。この影響で関東から大井川鐵道へ向かう客が減った。大井川鐵道だけではなく、周辺の秩父鉄道や真岡鐵道も影響を受けている。

 さらに観光バスツアー客の減少が追い打ちをかけた。近年の相次ぐツアーバスの事故を受け、長距離観光バスについて運転士二人の乗務が義務付けられた。これはバス運行費用のコストアップと、運転士不足を招いた。その影響で、東京・名古屋から大井川鐵道への観光バスツアーが激減したという。

 ただ、島田市に静岡空港が開港するなどの追い風もあった。大井川鐵道は2013年、実験的にC11形を青く塗り、大きな目玉を付けた「SLくん」を運行した。この試みは、子どもには好評だったようだ。しかし、保存鉄道としてのSLを好む鉄道ファン層や年配の旅行者層からは不評だった。大井川鉄道によると「鉄道ファンは黒いSLが好きなんですよ」とのこと。2007年にタイから帰還したC56形をタイ国鉄時代の緑色にしたときも賛否両論あったという。

 日本国鉄型のSLは黒。この呪縛は他のSL運行会社にもあるだろう。しかし、大井川鐵道の「SLくん」の試みは、トーマス関係者にとって「柔軟に対処できる鉄道会社」と感じられたようだ。まがい物の青いSLを走らせるくらいなら、トーマスを走らせてもらいたい。これは、トーマス関係者だけではなく、トーマスファン、鉄道ファンにも同感できる部分である。

 SL集客の落ち込み、試行錯誤の試み。そんな大井川鐵道にとって、トーマスの話は絶好のチャンスだった。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.