中国はどこまでベトナムと争うのか――米国、日本も他人事ではない理由藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2014年05月14日 07時30分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 中国は一体どこまでやるつもりなのか。ベトナムとの領有権争いである。この紛争の行方は、尖閣に対する中国の姿勢を占う材料になるだけに、日本としても“対岸の火事”どころの話ではない。ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議では「全当事者に自制と武力不使用を求める」という首脳宣言が採択されたが、もちろん中国は「紛争は2カ国間の問題であり、ASEANから言われる筋合いはない」という従来の立場に立って、この首脳宣言には反発している。中国メディアもこの宣言には触れていないようだ。

 今回の中国とベトナムの“衝突”は、まだ軍事的なものには至っていないが、放水をしたり、艦船を衝突させたりと激しいものだ。もし、どちらかの船が沈むなどして犠牲者が出れば、武力衝突に発展しうる。米国のケリー国務長官も懸念を表明している。

 ベトナム側からすれば、領有権の係争がある海域において、中国側が「単独」で海洋資源の開発に乗り出したことが問題なのだ。中国はこの海域の開発において、過去の紛争を棚上げして共同で開発できると示しており、実際に両国が共同開発をしてきた実績もある。それを今回、中国が単独で勝手に開発を進めたことがベトナムを刺激したのだ。中国は今のところ、ベトナムの主張を「自国の領海における中国企業の正当な開発である」として突っぱねる姿勢だ。

photo 今回、中国とベトナムの艦船衝突騒動が起きたのは、南シナ海の西沙諸島付近だ(出典:Google Map)

 ASEAN諸国の対中関係にはずいぶんと温度差がある。その中でもベトナムは先鋭的に中国と対立している。ベトナム戦争当時(1960年〜1975年)は、中国から武器援助を受けていたものの、その後、カンボジアをめぐって中国と対立し、1979年にはとうとう戦争になった。ベトナムに侵攻した中国軍は勝利を宣言しつつ撤退したが、中国軍も甚大な犠牲を払ったと言われている。

 カンボジアはクメール・ルージュ時代のポル・ポト政権以来、中国と深い関係にある。ミャンマーは軍政時代に西欧から制裁を受けていたことから中国との関係が強化された。しかし、最近は両国とも中国からやや距離を置くようになった。今回のASEAN首脳会議はミャンマーのネピドーで開催されたが、テイン・セイン大統領が議長となって、名指しこそしなかったものの、中国への懸念を表明したネピドー宣言を採択したことに距離感が表れている。華僑の資本が強いマレーシアやシンガポールの対中意識は微妙だ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.