冒頭の“もう恋なんてしない……なんて言わないよ 絶対”の「もう恋なんてしない」は「これからも恋をしたい」という気持ちの表れだし、“私たちは絶対、絶対、ヨリを戻したりしない”は、「ヨリを戻したい」という心情の裏返しとも考えられる。人の本心が表層的に言っていることと全く異なるというのはよくある話だ。ここから先は、インタビューの内容を基に私なりの整理で解釈し、定説に対する別な仮説を打ち出してみたい。
まず、ここまでの情報を整理してみよう。
これだけを見ると、わずかな時間で定説が概観、裏付けられたようにも感じる。しかしここは、ビジネススクールでクリティカルシンキングを教えている者として「隠れた前提」を探す姿勢で考えてみたい。隠れた前提というのは、ある説の中に明言されてはいないが、暗黙に存在と正しさが共有されているもののことだ。
私が気になったのは、Yさんの「すぐ忘れた」と、Sさん、Kさんの「1年とか2年とか経ってから」「結構、引きずる」の間にある微妙な時間的な差異だ。ここに冒頭の華原朋美さんのエピソードを加味して前提を追加すると、
という少し異なる解釈が浮かんでくる。
これを基に「一度別れた男のことはきれいさっぱり忘れ、男は未練がましい」に、もう一段、私なりの解釈を加えるとこうなる。
ここまで来ると、定説に逆らう新しい仮説も出してみたくなる。
ここには、男性としての自分の実体験を入れている。先に、過去のささいな事を引っ張り出され女性に責められた経験について触れたが、例えば男性には、パートナーとのやりとりでこんな経験はないだろうか?
女:あなた、以前に***と言ったわよね。それに、×××のときにも、○○○○したじゃない。
男:なんで、そんな昔のことまで蒸し返すんだよ。だいたい、よくそんなこと覚えていられるよな。
女:ムカムカしたら、昔、別のことでムカムカしたことまで思い出しちゃったのよ。
こうした経験を踏まえ、私が仮説1と仮説2の前提に置いてみたのが以下だ。
つまり、だからこそ女性は「嫌な感情を思い起こさせる、悪い思い出が多い恋は忘れる」し、男性は「嫌な感情が蘇るわけではないので、悪い思い出の多い恋を忘れる必要を感じない」のではないか。あるいは、だからこそ女性は「良い思い出が多い恋は、思い出とともに引き出される良い感情と現状の感情のギャップを感じやすいため、次の恋を見つけるまではなるべく見ないようにし(引きずり)」、男性は「良い思い出を語ったところで、それと感情は切り離されているため2年でも3年でも語り続けられる」のではないか――。
もしこの仮説3と4が成り立つのなら、恋愛に限らず人間関係において、より感情を伴って豊かな世界を持っているのが女性で、ドライな世界に住んでいるのが男性、とも解釈できる。特に仮説4は、いわゆる“男性社会”において、仕事の中でも、より強化される面がある気がしており、このあたりは次回以降に掘り下げていこうと思う。
……と、ここまで書いたところで、頭上から妻の声が聞こえてきた。
妻:あなた、何を書いているの?
私:男と女の違い。
妻:あなたにそんなの分かるわけがないじゃない。私の気持ちだって分からないんだから。
私:……。
そりゃそうだな。
東京大学工学部応用物理学科卒業後、日本アイ・ビー・エムに入社。銀行オンラインシステム担当のシステムズエンジニア&営業マネージャを経験。その後、外資系SIベンダー、マイクロソフトにおけるソリューションビジネスの経験を経て、戦略系コンサルティングファームA.T.カーニーに入社。メーカーの事業戦略・SIベンダーの営業戦略・組織改革、金融機関のIT戦略等、IT知識を持つ戦略コンサルティングプロジェクトに従事した経験を持つ。グロービスにおいては、マーケティングならびに思考系の講師を担当している。
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