進化し続ける“定番商品”――「キットカット」の新たなブランド戦略に迫る高級路線の展開もヒット中(1/2 ページ)

» 2014年02月28日 08時30分 公開
[池田憲弘,Business Media 誠]
photo ネスレ日本社長の高岡浩三氏

 2月13日、ネスレ日本(以下、ネスレ)が2013年の業績を発表した。為替変動などの影響を除いた、売り上げの対前年伸び率を示すオーガニックグロース(OG)は4.1%、営業利益では7.8%の成長となった。「先進国市場が伸び悩び、オーガニックグロースが平均約1%という状況のなか、日本は4%を超える成長を実現した」と同社社長の高岡浩三氏はアピールした。

 ネスレは2013年、すべての「ネスカフェ」製品をインスタントコーヒーから「レギュラーソリュブルコーヒー」に一新し、家庭外の飲用機会促進の施策「ネスカフェシステムインサイド」を大々的に展開するなど、コーヒー製品に注力してきたように見える。しかし、実際にネスカフェよりも高い成長を遂げているのは、キットカットだ。

 カテゴリー別で見ると、チョコレート・菓子類のOGは9.8%の成長、営業利益に至っては32.5%も増加している。売り上げ全体に占める割合は12.7%と決して大きくはないが、2013年の成長を支えた主要因と言える。1973年に日本で発売し、約40年の歴史を持つキットカットが、ここにきて売り上げを大きく伸ばしたのは、なぜなのか。

photophoto ネスレ日本グループの2013年の売上構成比。最も多いのはもちろんネスカフェなどを含むグロサリー部門だ。チョコレート・菓子類の割合は12.7%となる(左)。売り上げをカテゴリー別で見ると、チョコレート・菓子類の伸びが一番大きい(右)

成長を支えたオトナの甘さシリーズ、京都府とのコラボでヒット

photo 2013年にヒットした「キットカット オトナの甘さ 抹茶」

 2013年にヒットしたのは「キットカット オトナの甘さ」シリーズだ。甘さを控えつつ、細かく砕いたビスケットをチョコレートに入れて軽い食感を目指した製品だが、今やこのオトナの甘さシリーズが、キットカット全体の売り上げの3分の1を占めている。シリーズ全体における2013年の売り上げは、前期比で30%以上増加するなど、快進撃が続いている。

 「競合他社がこのオトナの甘さをまねて、大人用の製品を展開したが、むしろそのようにまねされるのは、こちらとしては好感が持てる。業界全体を先導していくような、イノベーティブな存在であり続けたい」と高岡氏は発表会で述べた。

 オトナの甘さシリーズは、スタンダード製品に加えて、期間限定で抹茶、ストロベリーなどのフレーバーがあるが、最も売れているのは抹茶だという。2012年に初めて登場したが、2013年に再登場し「京都PRパートナー」に選ばれたことでブレイク。2013年2〜8月で約900万袋が売れ、売り上げは前年同期比で180%に達した。京都文化の普及や、抹茶の魅力を伝える商品として認知度も高まり、海外からの観光客にも人気が出た。

photo ネスレ日本の広報を担当する細川得央氏

 「キットカットは世界中で認知されているブランドなので、海外旅行のお土産として買いやすい。日本の色が強い抹茶味は、中国や台湾など多くの外国人観光客に人気が出ました」と話すのはネスレ日本 マーケティング&コミュニケーションズ本部 メディアリレーションズ室の細川得央氏。このオトナの甘さは2010年9月に発売したシリーズだが、新たなユーザー層を獲得するための施策だったという。

 「当時、キットカットといえば、口コミで“きっと勝つ”という語呂が広まったことから、受験のイメージが強かったんです(参考記事)。『おいしさ』とともに情緒的な価値も求められる製品でした。10代や20代前半の間で認知度は高かったのですが、それより上の世代になると、受験を思い出す“懐かしい”製品になっていました」(細川氏)

 そこでネスレは、新たな柱になる製品として、オトナの甘さシリーズを開発に着手した。パッケージの色を黒にし、赤と黒の“2色展開”という宣伝を行った。発売当初はお互いの市場を食い合う懸念もあったが、キットカット全体の売り上げは順調に伸びた。

 「日本はもともとキットカットの消費量が多い国。世界でもイギリスに次いで第2位なんです。フレーバーの数はお土産として人気の高い“ご当地キットカット”を含めれば、これまで200種類以上販売しておりダントツ。ほかの国は5〜6種類ぐらいですから。こうした取り組みは海外でも高い評価を受け、注目されています」(細川氏)

 オトナの甘さシリーズは、通常のキットカットに比べてやや割高だ(大袋タイプだと価格は同じくらいだが、内容量がやや少ない)。ご当地キットカットの価格も通常のキットカットの2〜3倍だが、それでも限定品とあって売れ行きはよいという。こうして従来製品よりも高価格な商品が好調に売れていることが、利益増につながっているのだ。

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