出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。
2013年12月9日深夜、賛否の議論が起きた特定秘密保護法が成立した。その後もメディアやネット上でさまざまな意見が飛び交っているが、お隣の中国でもメディアと報道の自由について興味深い動きがあった。
中国当局が、12月末で切れる中国駐在の外国人記者のビザ更新申請に応じていないというのだ。米ニューヨークタイムズ紙とブルームバーグニュースがその嫌がらせを受けており、更新ができなければ支局が機能できなくなる恐れがあると報じられた。その理由は、彼らが中国に不都合な報道をしているからだというのが大方の見方だ。
ご存じの通り、中国国内の報道は当局の検閲で情報統制が行われており、報道の自由はない。だが報道の自由が確立している欧米などの記者は、中国の情報統制には納得がいかないために、独自でネタを拾い当局の圧力に屈することなく記事を書く。今回標的になったニューヨークタイムズはここのところ、特に派手に中国政府にとって都合の悪いニュースを報じてきた。米政府機関や企業を狙う中国人民解放軍のサイバー部隊である61398部隊の実態を暴露したもその一例だ(参照記事)。
そもそも最近ニューヨークタイムズに対する嫌がらせが強くなった理由は、同紙が2012年10月にスクープした温家宝前首相に関する記事だった。同氏の妻をはじめとする親族が温の威光で27億ドルにも上る不透明な資産を蓄えたと指摘したのだ(参照リンク)。
ちなみにブルームバーグニュースも、まだ国家主席になる前の習近平(当時は副首相)を含む政府高官の家族が蓄財していることを2012年に記事にしており、こうした報道姿勢が今回のビザ遅延につながっているとみられている。ただし、ブルームバーグは別の共産党幹部の蓄財に関する記事を中国当局からの国外追放といった報復を恐れてお蔵入りにしたと、ニューヨークタイムズに2013年11月にすっぱ抜かれており、少し格好の悪い状態になっている。
とまあ、こんな騒動が起きていたのだが、このニュースが世界中で話題になり、ジョー・バイデン米副大統領も習との会談でこの話題を取り上げると、中国当局は徐々にビザ手続きを開始。何でも自分たちの思い通りになるよう高圧的な姿勢を貫く中国当局にとっては、欧米の大手報道機関ほど目障りな存在はない。まったく言うことを聞いてくれないのだから当然である。
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