ここで「わざわざ不便なところに住む人に対して、なぜ税を投入するのか」と考えてしまったら、交通権に対する理解が不足している。自由な移動は人間の基本的な権利である。例えばそれは生存権のもと、国民が誰でも飲料水を得られるように水道を整備しなくてはいけないという考え方と同じだ。過疎地に水道を引く。その維持費が赤字だとして、それを責める人はいないだろう。
電話網もそうだ。過疎地でも電話が必要だ。そのために私たちの電話料金にはユニバーサルサービス料が加算されている。電話については異論反論も多々あるようだが、水道については生存権の基礎的公共サービスとして納得できると思う。もしかしたら、鉄道にもユニバーサルサービス料制度ができて、都心の公共交通機関の運賃に加算し、地方交通の整備、維持に使うというアイデアが出てくるかもしれない。
「交通政策基本法」は、交通権を生存権なみに格上げするという画期的な法律だ。公共交通機関は政府の政策道具だった。次に会社の利益手段へと移った。そして同法が施行された現在は利用者の交通権の対象になった。今後も鉄道会社やバス会社の路線撤退表明はあるだろう。しかし、民間企業撤退の後、地域の交通権の確保は自治体と国が責任を持つことになる。同法のもとで、まずは被災地で寸断された鉄道や道路の復旧加速が期待できる。また、ローカル鉄道、ローカル路線バスの存廃論議が、損益重視から権利重視となり、新たな展開になると思われる。
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