政府の「原発再稼働ありき」が透けてきた――こんなときこそ読むべき1冊相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2013年06月27日 07時59分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『震える牛』(小学館)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『鋼の綻び』(徳間書店)、『血の轍』(幻冬舎)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 先週、与党幹部の原発再稼働を巡る発言で、一騒動が起きた。自民党の高市早苗政調会長のひと言がそれだ。発言を巡る与野党のごたごた、原発再稼働の可否については他稿に譲るが、どうしても私自身のイラ立ちが収まらない。それは、高市氏の発言により、「再稼働ありき」の政府の思惑が透けて見えたと同時に、最大の被害者である福島の人たちが置き去りになっている構図が鮮明になったからだ。こんなとき、1冊の本が重大なことを教えてくれた。それはなぜ日本に原発があるのか、を問い質しているのだ。 

怒り心頭

 まずはことの経緯を振り返ってみよう。

 6月17日、自民党の高市氏が神戸市で講演。この中で、参加者とのやり取りで原発の再稼働問題に関し、こんな発言を行った。

「福島第一原発で事故が起きたが、それによって死亡者が出ている状況ではない。最大限の安全性を確保しながら活用するしかない」――。

 この発言はたちまちメディアに取り上げられ、同政調会長は批判の矢面に立たされた。本稿をお読みの読者の中にも、あんぐりと口を開けた向きがいるのではないだろうか。かくいう私もその1人。同時に、東日本大震災の取材で訪れた福島県浜通り地方の風景、そして今も避難生活を強いられている人々の顔が次々に頭に浮かんだ。

 取材を通じ、浜通りの人々から、原発事故からの避難途中、あるいは避難先で亡くなった方々の話を聞いていたので、与党幹部という重責を担う人物から出た言葉とはにわかに信じられなかった。

 批判の高まりを受け、高市氏は翌日国会内でこんな釈明をした。

 「福島の原発事故では、被ばくが直接の原因で亡くなった方はいないが、安全基準は最高レベルを保たなければいけないということをお伝えしたかった」――。

 高市氏の言い分をチェックすると、自分の言葉足らずを補足するとともに、暗にマスコミが騒ぎすぎた、とのニュアンスも見え隠れする。

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