“メディアスクラム”はなかったのか――アルジェリアでの人質事件を振り返る相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2013年01月31日 08時02分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『震える牛』(小学館)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『鋼の綻び』(徳間書店)、『血の轍』(幻冬舎)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 アルジェリアで人質事件が発生、同国政府の強硬突破により、多数の犠牲者が出た。この事件に関し、先週来メディアへの批判が高まっている。事件に巻き込まれ犠牲になった方々の実名を日揮が伏せた一方、多数のメディアが実名報道に踏み切り、かつ、この取材手法が“メディアスクラム”(記者が多数押しかけ、強引な取材をすること)ではないかとして、読者や視聴者の反感を買っているからだ。批判の対象となっているメディアの病根を改めて考えてみたい。

スキルが求められる取材

 2001年9月11日の夜。当時、私は東証の兜記者倶楽部で原稿を執筆していた。作業にひと区切り付け、備え付けのテレビを見た瞬間、ビルに飛行機が突っ込む場面に遭遇した。

 衝撃的な映像を見た直後から、私は取材に没頭した。

 テロの標的となったビルには、多数の日系金融機関がテナントとして入居していたからだ。まず、ビルに入居していた金融機関を割り出し、次にその会社の人事や広報から駐在スタッフの人数、名前を聞き出した。その後は同僚と協力し、ニューヨークの住所、電話番号のほか、日本の家族、友人などをリストアップした。

 ここからが問題だった。私は東京にいる。映像こそ見たが、現地の詳細な様子は分からない。恐る恐るある駐在員の東京の留守宅にダイヤルする。通信社記者だと名乗った直後、電話口で絶叫にも似た女性の声が響いた。

 「ウチの息子、無事でしょうか? なにか情報ありませんか? 教えてください」

 取材する側は、駐在員が間一髪で危機を脱し、留守宅に連絡を入れているかもしれないという“勝手な予想”を前提としていた。年老いた女性の声を聞いた瞬間から、この種の取材は生半可な対応は絶対にできないと、身が引き締まった。

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