電機メーカーは生き残れない――新政権のあり得ない“支援”相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

» 2013年01月10日 08時02分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『震える牛』(小学館)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『鋼の綻び』(徳間書店)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 暮れも押し詰まった昨年の大晦日。私は新聞の一面見出しを読んだ瞬間、腰を抜かさんばかりに驚いた。先の総選挙で大勝した与党自民党が経済政策の柱として取り組むという製造業への支援策がスッパ抜かれていたからだ。スクープ記事を放つのは、記者の仕事。中身が優れたものであれば、「腰を抜かさんばかり」などという表現は決して使わない。そう、私は開いた口がふさがらないほど新政権の経済政策にあきれたのだ。

モルヒネのあとは劇薬

 公的資金で製造業支援=工場・設備買い取り、官民5年で1兆円超

 昨年12月31日付の日本経済新聞朝刊一面に、このような見出しが躍った。先に触れた通り、私はこの記事に仰天した。

 記事の中身をかいつまんで説明する。

 ここ数年で韓国や台湾、あるいは中国の新興メーカーとの競争に敗れ去った日本の電機メーカーを救済するため、政府がリース会社と組み、メーカーの工場や設備を買い取るというのだ。

 この支援策の根底には、裾野の広い産業界の雇用を維持するとともに、メーカーの窮地を救うことで産業の空洞化を防ぐ狙いがあると日経は伝えている。

 ここからは、あくまで私見である。ご了解いただきたい。

 仮にこの施策が実行に移されれば、記事中で触れている通り「モラルハザード(倫理の欠如)」に直結する。

 確かに雇用の維持、あるいは産業の空洞化を防ぐ意味合いはあろう。だが、もはや電機メーカーの苦境、はっきり言えば薄型テレビや半導体の国際的な競争力は数年前から落ち込み、リストラの本来の意味である「事業の再構築」が求められていたのは明白だ。

 薄型テレビや半導体の国際的なシェアは、専門調査会社の詳報に譲るとして、「日本市場という中途半端に規模の大きな市場向けに、国内メーカーは細々と商品を供給し続けてきた」(米系証券アナリスト)ものの、シャープやパナソニックのように国内市場でもそのほころびを繕えないレベルの赤字を生み出し、結果的に経営危機の瀬戸際まで追い込まれてしまったのだ。

 この背景には「家電エコポイントや地デジ転換など、形を変えた公的資金注入が既に電機業界向けに行われていた」(同)ことがある。

 「本来、数年前に薄型テレビから撤退し、新たな収益源をメーカー各社が見つけ出すべきだった時期にエコポイントや地デジ特需が起こり、皮肉な形で各社の寿命を縮める結末になった」(米系運用会社アナリスト)との厳しい声も根強い。

 こうした事情がある中で、与党自民党は新たな支援策、しかも工場や設備を買い取るという“甘々”なスキームを持ち出したわけだ。これをモラルハザードと言わず、なんと言うのか。

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