安倍自民が進むのは“いつか来た道”になるのか藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年12月25日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 まさに師走。議員先生が走り回った挙げ句、自民党が地滑り的勝利で政権を奪還した。ただし、と注釈をつけておかなければならない。自民党が勝ったのではなく、民主党が大こけにこけただけなのだ。3年前に民主党を支持した票の半分ぐらいが第三極に分散して流れた。その結果、票をほとんど伸ばすことができなかった自民党が、棚ぼたで300近い議席を獲得することができた。

 民主党もこりない政党だ。ある民主党の比例復活議員は、小選挙区制はやはりまずいのではないか、などと愚痴を言う。考えてみるがいい。小選挙区制でなければ3年前の政権交代はなく、民主党は万年野党の地位に甘んじていたかもしれないのである。それでも中選挙区制がいいなどと言い出すのだろうか。

 それはともかく、安倍「首相」は無駄にする時間はないとばかり、前のめりでいろいろ手を打っている。韓国や中国には特使を送る。金融緩和では日銀に「圧力」をかけ、日銀も物価目標を定めることに前向きの姿勢を示した。しかし安倍総裁は、ことあるごとに民主党の3年4カ月の間に、日本がいかにダメになったかを強調する。あたかもすべての責任を民主党に負わせようとしているかに見える。

 だがちょっと待ってほしい。民主党は「たかだか」3年あまり政権を握っていたにすぎない。党内ガバナンスの稚拙さや、政策の幼さが目立ってはいたものの、だからといって、民主党が日本を「構造的に」ダメにしたわけではない。もとはと言えば、不動産と株のバブルを生み出し、それがはじけたときに有効な手を打つことができず、金融危機をもたらしてしまった「真犯人」は自民党だ。現在の国債の危機的状況もバブル崩壊後に闇雲に行われた公共事業のツケである。

 安倍総裁は「無駄な事業はやりません」と何度も繰り返すが、今回の自民党を支援したのは地方の建設土木業界である。公共事業が干上がったために、この3年間苦労してきた業界だ。その彼らの期待に応えるためには、それ相応の「無駄な」事業もやらざるをえない。「乗数効果」の高い事業を探していたら、10年で200兆円も使えるはずがない。

 最も問題だと思うのは、相も変わらず資金の裏付けがないことだ。建設国債は「ばんばん日銀に買わせる」というような発言もあったが、一方で、物価目標を2%にするという。もし物価目標を2%にするというなら、いったいその時点で10年物国債金利の利率はいくらになっているのだろう。まさか現在の0.8%前後ということではあるまい。物価だけが上がって(すなわちデフレからインフレになって)、金利は据え置きというのはあり得ない話である。

 もし金利が1ポイント上昇したら地銀だけで3兆円、メガバンクで6兆円の評価損が出ると言われている(これは机上の計算で実際にはいっぺんに金利が上昇するわけではないから、これだけの損がある日、突然生じるということにはならないのだが)。

 もしそうなったら何が起きるのか。かつてバブルが弾けたときに、それまで企業などにどんどん資金を貸し付けていた銀行は、手のひらを返すように、融資の引き揚げを図った。土地や株が値下がりをして担保割れになったからである。同じように、国債の評価損が出れば、銀行は貸し渋り、貸しはがしに走る。自分の自己資本が毀損すれば、そうせざるを得ないのが銀行だ。

 つまり物価目標と言っても、そこに至るまでにそれなりの時間と態勢を整えてソフトランディングを目指さないと、場合によってはとんでもない「副作用」というかハードランディングあるいはクラッシュを生むことがあるということだ。安倍総裁のブレーンだったか、ある経済学者は「インフレ期待が生まれれば」と言っていたが、どちらかというと問題は「インフレ懸念」がどれほど強まるかということなのだと思う。

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