風俗に身を落とし……待ち構えていた090金融のワナ「弱者」はなぜ救われないのか(4)(1/6 ページ)

» 2012年09月25日 08時00分 公開
[増原義剛,Business Media 誠]

「弱者」はなぜ救われないのか:

 この連載は書籍『「弱者」はなぜ救われないのか―貸金業法改正に見る政治の失敗―』(著・増原 義剛、出版社・きんざい)の中から、田村建雄氏が書かれたルポを抜粋、再編集したものです。

 ヤミ金の過酷な取り立てにより自殺や一家離散に追い込まれた人々が社会問題となり、これに呼応する形で生まれた改正貸金業法が2010年6月に施行されてから約2年が経ちました。当時、その法律立法に当事者として携わった元自民党・金融調査会小委員長である増原義剛氏が今その問題点を振り返り、誤った改正に至った経緯を明かした書籍になっています。


風俗に身を落としたA子

 「……風俗で働かざるを得なくなったのです」。

――風俗って、どんな?

 こう私(今回の取材担当者:ジャーナリスト・田村建雄氏)が訪ねると彼女は神奈川県内でソープ街として全国的に有名な地名をボソリと漏らした。

 ヤミ金で風俗に沈められた女、A子(千葉県在住)は意を決したように、しかし消えいるような声でポツリポツリと語りだした。場所は都内繁華街のカラオケボックスだ。

 A子は20歳代後半。色白で二重瞼の大きな潤んだような眼をした髪の長い長身のスレンダー美人だ。ただ長い間の凄まじい日常との戦いに疲れたかのように、頬の部分が少しこけ、目の下には化粧しても薄っすらと黒ずみが浮かんでいた。

 私が、改正貸金業法完全施行以降、ヤミ金が減少したかどうかという取材にとりかかって4カ月が経過していた。関係者らの口は重く取材は困難を極めたが2011年師走に入って、やっと複数の元ヤミ金業、さらに何人かのヤミ金利用者を取材することができた。そうしたなかのヘビーユーザーのひとりが、A子だった。A子はヤミ金からこの1年の間に何度も融資を受け、一度は完済したものの、再びヤミ金に手を出して今、やっとクリーンになろうともがいている最中だった。

 しかし、そのヤミ金返済と、生活費のため、ついに風俗で働かざるを得なくなったというのだ。ごく普通の主婦が、どうして「風俗」にまで手を染めたのか。

 「時給800円とか900円とかのパートのお金では借金も返せないし、まとまったお金も欲しい。でも私が働けるのは昼間だけ。近所には私の実の父がいて、そこに子どもを預けられる。しかし、父も年齢が70台後半。もし父に預けて働けるとしても年齢的に、今年が最初で最後のチャンスと思ってしまったのです。それで一気に賭けに出た。でも慣れない仕事のせいか2カ月で体も精神的にも不調になり、辞めざるを得なかった。震災後ということと昼間のせいか指名も客も少なく本当に稼げなかった」。

 そして下を向き微かに唇を噛んだ。

 A子を究極の風俗まで追い詰めたヤミ金。そのA子とヤミ金の関わりはどんなことから始まったのか。

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